【香る物語】香りの檻
どちらからともなく近づき、唇がーー重なった。苦いアルコールの味と、かすかに漂うその匂い。

瞬間、私の中で『お兄ちゃん』が消えた。もうこの人は兄ではない。

今ここにいる男性は、彼、律己。

拒絶しなきゃいけないのに、彼の吐息に混じるそれはーー不思議と、甘い蜜のように心を奪った。

これ以上は、いけない。そう思うのに、体が動かない。ただ、彼のぬくもりに溶けていく。

……拒めない。拒みたくない。

いつのまにかベッドに横たわっている私。
目の前には私を見下ろす彼。
背中とシーツが擦り合わされるたびに、彼の香りに後ろから抱きしめられる。

その香りは、さっき玄関で感じたものよりも濃く、シーツに残る彼の体温と溶け合って、この時間が、永遠に閉じ込められたみたいだった。

ーーまるで魔法の媚薬のように。

吸い込むたび、胸の奥の抵抗がほどけていく。もう息をすることさえ、彼に委ねるように。香りが体の奥まで満ち、頭がとろけていく。

ーーもう、抗えない。

その瞬間、耳もとでかすれた声が聞こえた。

「……らん」

一気に現実へ引き戻された。胸の奥を引き裂かれたように、喉が締まり、嗚咽が漏れそうになった。でも、その痛みさえも、もう拒めなかった。

彼の目に映っているのは、きっと私じゃない。私を通して彼女を見ている。

私は彼女という仮面を被った人形なんだ……

それでもいいーー今、彼の腕の中にいるのは、確かに私だから。

彼女の仮面の下で息をする『私』を、彼のぬくもりが静かに包み込んでいた。



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