【香る物語】香りの檻
『香りで人の心と体を整える。
薬に頼らない癒やしを探る。』
祖父の信念を確実に受け継ぎながら、時代に合わせてアップデートした兄の言葉。その文字を追ううちに、ページからふわっと淡い金木犀とローマンカモミールの香が立ちのぼった気がしたのは、錯覚だろうか。
このブレンド香、好き。
お兄ちゃんが、ブレンドしてくれたんだよね。
芳香堂は家族で支える小さな会社。派閥も、競争もない。お兄ちゃんが次の社長になることは、最初から決まっている。
けれど、彼の名前を見つめていると、今よりさらに遠く、手の届かない存在であることに改めて気づかされた。
「はぁ……あれほどお父さんに頼んだのに。総務の一般事務がいいって……」
ため息と一緒に落胆の言葉が小さくこぼれた。
同期のみんなが浮き足立って、新しい配属部署へ向かうため、エレベーターに乗り込んでいく。
そんな中、人のまばらなホールをひとり横切り、無意識に階段を目指した。
薬に頼らない癒やしを探る。』
祖父の信念を確実に受け継ぎながら、時代に合わせてアップデートした兄の言葉。その文字を追ううちに、ページからふわっと淡い金木犀とローマンカモミールの香が立ちのぼった気がしたのは、錯覚だろうか。
このブレンド香、好き。
お兄ちゃんが、ブレンドしてくれたんだよね。
芳香堂は家族で支える小さな会社。派閥も、競争もない。お兄ちゃんが次の社長になることは、最初から決まっている。
けれど、彼の名前を見つめていると、今よりさらに遠く、手の届かない存在であることに改めて気づかされた。
「はぁ……あれほどお父さんに頼んだのに。総務の一般事務がいいって……」
ため息と一緒に落胆の言葉が小さくこぼれた。
同期のみんなが浮き足立って、新しい配属部署へ向かうため、エレベーターに乗り込んでいく。
そんな中、人のまばらなホールをひとり横切り、無意識に階段を目指した。