【香る物語】香りの檻
ゆっくり一歩一歩、階段を上っていく。なるべく時間を引き延ばすように。今できる唯一の、でも無駄だとわかっている抵抗を試みる。カタツムリみたいにのっそりのっそりと、しかし確実に自分を引きずって上へ上へ。それでも何度も足を止めてしまった。
はぁ……行きたくない……
その言葉が胸の奥でじわじわと浸透する。
3階の廊下に着いて、ふと窓の外の美しい春淡色が目に入る。やわらかな陽に透けた花びらが、ゆらゆらと空を漂っていた。
その瞬間、心の奥深く、海底のように静まり返っていた暗闇に、誰かがそっと手をかけて、重い扉を開けてくれたような気がした。
差し込む光は、見てはいけない『もうひとつの世界』の色をしていた。ほんの束の間の安らぎ。
あぁ、私もあっちへ行きたい。
ーーそのときだった。
いたずらな春風が吹き抜け、花びらが一斉に窓へ叩きつけられた。
バン!
窓ガラスが震え、思わず一歩、後ずさる。
胸の奥で鼓動が痛いほど跳ね、息をのんだ。
はぁ……行きたくない……
その言葉が胸の奥でじわじわと浸透する。
3階の廊下に着いて、ふと窓の外の美しい春淡色が目に入る。やわらかな陽に透けた花びらが、ゆらゆらと空を漂っていた。
その瞬間、心の奥深く、海底のように静まり返っていた暗闇に、誰かがそっと手をかけて、重い扉を開けてくれたような気がした。
差し込む光は、見てはいけない『もうひとつの世界』の色をしていた。ほんの束の間の安らぎ。
あぁ、私もあっちへ行きたい。
ーーそのときだった。
いたずらな春風が吹き抜け、花びらが一斉に窓へ叩きつけられた。
バン!
窓ガラスが震え、思わず一歩、後ずさる。
胸の奥で鼓動が痛いほど跳ね、息をのんだ。