【香る物語】香りの檻
「……でも父さん、一つだけ約束してほしい」
自分でも驚くほど、声がかすれていた。再び身体が強張る。これから、自分の決心を伝えるからだ。
「俺は、この研究を終えるまでは何も言わない。もしその間に……穂乃香が、他の誰かを好きになったなら、きっぱり引く。そして変わらず『妹』として接する。ただ……彼女に来る縁談だけは、全部断ってほしい」
父さんの眉が動き、口元がごくわずかにゆるんだ。咎めではない。『ようやく本音を言ったな』、そんな安堵に近い表情だった。
一方で穂乃香は、不満だったようだ。芳香堂への就職、そして何より、俺の元への配属を望んではいなかった。
彼女の職場での言動を見れば分かる。あくまでも俺とは事務的に、上司として接するだけ。それ以上でも以下でもない。
俺だけに限らず、蘭や零司に対しても同じだった。昼休みでさえ、その距離は変わらない。
彼女は俺たち三人から一線を引いている。蘭たちに言わせれば、その変化が見られたのは、穂乃香が高校生の頃からだという。
なぜだ?
これは単に公私混同を避けたいだけなのか……?
秋には穂乃香の誕生日を迎え、その後、正月が来た。俺は今年も実家を訪ねた。
もちろん二回とも、彼女は友人と『忙しい』らしく、以前と変わらず遅い帰宅。
誕生日にはいつも通り、彼女の部屋の前に
俺が調合した『穂乃香ブレンド』をそっと置いていく。いつかこの香りがなくても、彼女が安心して眠れるようにと願いを込めて。
自分でも驚くほど、声がかすれていた。再び身体が強張る。これから、自分の決心を伝えるからだ。
「俺は、この研究を終えるまでは何も言わない。もしその間に……穂乃香が、他の誰かを好きになったなら、きっぱり引く。そして変わらず『妹』として接する。ただ……彼女に来る縁談だけは、全部断ってほしい」
父さんの眉が動き、口元がごくわずかにゆるんだ。咎めではない。『ようやく本音を言ったな』、そんな安堵に近い表情だった。
一方で穂乃香は、不満だったようだ。芳香堂への就職、そして何より、俺の元への配属を望んではいなかった。
彼女の職場での言動を見れば分かる。あくまでも俺とは事務的に、上司として接するだけ。それ以上でも以下でもない。
俺だけに限らず、蘭や零司に対しても同じだった。昼休みでさえ、その距離は変わらない。
彼女は俺たち三人から一線を引いている。蘭たちに言わせれば、その変化が見られたのは、穂乃香が高校生の頃からだという。
なぜだ?
これは単に公私混同を避けたいだけなのか……?
秋には穂乃香の誕生日を迎え、その後、正月が来た。俺は今年も実家を訪ねた。
もちろん二回とも、彼女は友人と『忙しい』らしく、以前と変わらず遅い帰宅。
誕生日にはいつも通り、彼女の部屋の前に
俺が調合した『穂乃香ブレンド』をそっと置いていく。いつかこの香りがなくても、彼女が安心して眠れるようにと願いを込めて。