【香る物語】香りの檻
第三章: 重なる苦しみ

穂乃香(ネロリ/ 酒・安っぽいコロン・タバコ・体臭)〜揺れる身体と、追いつく悪夢〜

*香りノート:ネロリ/ 酒・安っぽいコロン・タバコ・体臭*いつもは好きだった、花の柑橘の香り。けれど今日は、その甘さが胸の奥をざわつかせる。その違和感を合図にするように、小さな香りの箱にしまい込んだはずの臭いが漏れ出し、忘れた過去を呼び戻す。
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人工的な光沢を放つプラスチックの蓋にじっと座っている。服の上からでも感じる冷たさが、じわじわと全身の皮膚の奥へと沈んでいく。冷房が入っていないこの時期に、体の芯から冷えを感じるのは、極度に緊張しているからだろうか。

自宅付近の駅ビルのトイレ奥の個室。他に誰もいないこの狭い空間で、静かにときが過ぎるのを祈る思いで待つ。

昨日から両親は、結婚記念日の旅行へ行っており、2週間はいない。それでも、わざわざここで検査するのは、どこかに罪悪感があるからなんだろう。だってあの家は『幸せな家族』の場所だから。

きっと大丈夫……

天井の方から聞こえてくる心地よいはずの音楽は、ゆったりとしたテンポのピアノ。耳を傾けないと気に留めることのない音は、まるで空気のようにその場に自然と溶け込む。

それとは反対に、体の中で暴走する鉄道のように鼓動が激しく打ちつけ、その振動に体が震えた。

またいつものように遅れているだけ……
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