【香る物語】香りの檻
たった3分の待ち時間が、永遠のように感じた。手のひらにある細長いスティックへ、まだ見たくないのに視線が吸い寄せられる。
……二本の、薄いピンク色のライン。
えっ、うそ……
空間に漂う、芳香剤特有の人工的なシトラスの香りが鼻につき、ムカムカと胃を刺激する。
ぼんやりとした現実感のない二本線が、嫌というほど目に焼きつく。その瞬間、全身から血液が抜け落ちるような感じがした。ヒュッと短い音と共に、冷たい空気が喉を通過する。『どうしよう』という思いに、視界がわずかに滲んだ。
声にならないため息が、口から漏れる。
1か月半……気づいたら、あっという間に過ぎていた。
あの夜のことを考えない日なんてなかったのに、その期間を数える余裕もなくなっていた。
お兄ちゃんーー律己さんがそばにいるだけで、心臓がいつも不自然に大きく跳ね上がった。でも彼は、まるで何事もなかったかのようにいつもと変わらない。私は彼と目を合わせることもできずにいる。
彼はあの夜のことを何とも思っていないんだろうか?
……彼にとって、ただの『大人の遊び』だったんだろう。
それとも、本当に覚えていないのかな……何も?
でも、わかってたでしょう。律己さんの心にはいつも蘭ちゃんがいるって。忘れたわけじゃない。この二人が家の外で抱き合っていた姿。
それに先月、酔った蘭ちゃんからの逆プロポーズの言葉、『ねぇ、律己ぃ。もう結婚しちゃおうよ、ね?』
だからあの夜、彼が珍しく酔った日、その機会を私は利用したのだ。ダメだとわかっていた。それでも私は、流されるまま彼を拒まなかった。
『これが最初で最後』と。
嬉しかった、最愛の人と結ばれた時。
あの時間は彼と私だけのもの……だった。
彼の口からあの言葉が溢れるまでは。
ーー『……蘭』と。
……二本の、薄いピンク色のライン。
えっ、うそ……
空間に漂う、芳香剤特有の人工的なシトラスの香りが鼻につき、ムカムカと胃を刺激する。
ぼんやりとした現実感のない二本線が、嫌というほど目に焼きつく。その瞬間、全身から血液が抜け落ちるような感じがした。ヒュッと短い音と共に、冷たい空気が喉を通過する。『どうしよう』という思いに、視界がわずかに滲んだ。
声にならないため息が、口から漏れる。
1か月半……気づいたら、あっという間に過ぎていた。
あの夜のことを考えない日なんてなかったのに、その期間を数える余裕もなくなっていた。
お兄ちゃんーー律己さんがそばにいるだけで、心臓がいつも不自然に大きく跳ね上がった。でも彼は、まるで何事もなかったかのようにいつもと変わらない。私は彼と目を合わせることもできずにいる。
彼はあの夜のことを何とも思っていないんだろうか?
……彼にとって、ただの『大人の遊び』だったんだろう。
それとも、本当に覚えていないのかな……何も?
でも、わかってたでしょう。律己さんの心にはいつも蘭ちゃんがいるって。忘れたわけじゃない。この二人が家の外で抱き合っていた姿。
それに先月、酔った蘭ちゃんからの逆プロポーズの言葉、『ねぇ、律己ぃ。もう結婚しちゃおうよ、ね?』
だからあの夜、彼が珍しく酔った日、その機会を私は利用したのだ。ダメだとわかっていた。それでも私は、流されるまま彼を拒まなかった。
『これが最初で最後』と。
嬉しかった、最愛の人と結ばれた時。
あの時間は彼と私だけのもの……だった。
彼の口からあの言葉が溢れるまでは。
ーー『……蘭』と。