【香る物語】香りの檻
翌朝、珍しく寝過ごしてしまった。いつもなら、時間になっても起きてこない私をお母さんが起こしてくれる。その流れで、お父さんも車で一緒に行こうと言ってくれる。

でも今、二人はいない。あんなに一人暮らしをしたがっていたのに、今更ながら、いかにこの暮らしが恵まれているかを痛感した。

家から駅まで約10分。悠長に歩いていられず、3センチのヒールでカッカッカッと駅前ロータリーへと走った。

えっ、なんか体が重いよ……
思うように走れない。
遅いんだけど!
朝ご飯食べなかったから?
まさか、太った?

できるだけ早く足を動かし、息を切らしながら、出発直前のバスにどうにか乗り込めた。席はすでに埋まっている。朝のラッシュ時だが始発のためか、すし詰め状態ではない。

吊り革につかまり、呼吸が落ち着くとともに、激しく上下していた肩の動きもようやく収まる。ぼーっと窓の外を流れる街の景色を眺めていた。

次の停留所でさらに人々が乗り込み、少し窮屈になる。ビーッと警告音が響き、ドアが閉まった。ゆっくりとバスが走り始める。

その瞬間、車内に充満した汗の匂いが鼻をつく。いつもなら気にも留めない程度のはずなのに、今日はやけに生々しく感じた。駅まで走った自分のものなのか、周りの人のものなのかわからない。

胃の奥から何かが込み上げてくる。寒くないのに額には汗がうっすら浮かぶ。足元がふわふわと揺れるような感覚に襲われ、まっすぐ立っているのも危うくなった。

我慢できなくなり、急いでボタンを押す。バスが止まると同時に、人混みをかき分けるように降りた。

ふらふらと、バス停のベンチに滑り込むように座った。
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