【香る物語】香りの檻
空調の耳障りな低い音だけが、しばらくこの空間を支配した。重い緊張感が張りつく。

みんなの反応にいたたまれなくなり、吐き気まで増していく。逃げるように無言で部屋を後にして、トイレに駆け込んだ。

ーージャーッ、ゴボゴボゴボ、ゴボッ……

勢いよくトイレの水が流れる。

昨夜から何も食べていないから、吐き出せたのは胃液だけ。

閉じた便器の蓋に腰を下ろした途端、頭の中でさっきの光景が何度も繰り返される。少し冷静になれたからか?

私の人生で初めて、大声を上げた。あのときの蘭ちゃんの様子。ビクッと怯えたその姿に、幼い頃の自分が被る。

なんてことしちゃったんだろう?
いくら気分が悪くても、蘭ちゃんにイラついたからって、声を張り上げちゃうなんて。
これじゃあ、あの『ろくでなし』と同じじゃない。

このとき初めて、自分の中にもあの父親の血が流れていることを、嫌というほど実感した。


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