【香る物語】香りの檻
部屋に一歩入りドアを閉めた瞬間、空気がひんやりと変わったのがわかる。

壁一枚隔てただけなのに、外の世界の音は完全に遮断され、私の心も一緒に吸い込まれていく。たちまち、得体の知れない恐怖に覆われた。

やっぱりあのとき、両親に反対されても自分の意志を通せばよかった。

総務がいい、
違う会社に行きたい、
ひとりで生活してみたい

ーーそんな気持ちを心の奥底にしまい込んでしまった。今さらながら自分を責め、後悔する。

空調の耳障りな低いうなりと、パソコンのスリープランプの点滅だけが、この監獄のような空間を支配していた。

壁は灰色で、窓も時計もない。もちろん心を癒やしてくれる花や観葉植物もない。無味で無臭の空気の中、心の奥にかろうじて灯っていた小さな希望の灯火さえ、徐々に消されていく気がした。

この部屋には、人の気配を感じさせる音も匂いもない。まるで、目の前の世界そのものが、静かに溶けていくようだった。

この部屋にいると、自分の五感が少しずつ狂っていくような気にさせられる。現実と幻の区別が、ふとした瞬間に曖昧になる。
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