【香る物語】香りの檻
次の日。

何度か込み上げる吐き気はあった。けれども、机の引き出しに忍ばせた飴やクラッカーのおかげで、どうにか仕事を続けることができた。

昨夜の電話では、大まかな説明を受けただけだった。料金のこと、当日の流れ、必要な書類。契約成立後は担当者が病院に同行し、手術後は自宅付近まで送ってくれるらしい。

一人で病院へ行き、一人で帰ってくるしかないと思っていた私には、その説明だけがわずかな救いに聞こえた。

ただ、私の頭にずっとこびりついて離れないのは、同意書にある『パートナー署名・印』の欄。そのことを尋ねると、電話の担当者はその点だけ言葉を濁し、『直接会って説明します』と言った。

もしかして、これって……法的にギリギリ?
いや、依頼内容によっては完全に違法……文書偽造とかになる?

そう思った瞬間、背筋を冷たいものが這った。

でも、他に方法はない。

仕事が終わる頃には、胸の奥が妙に静かになっていた。
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