【香る物語】香りの檻
終業後、少しだけ残業をして時間を調整した。
第一研究室にはすでに誰もいない。秘書室奥の主任室に律己さんがまだ残っている。
ドアの向こうから時折聞こえてくる笑い声。
零司くんと蘭ちゃんも一緒にいるみたい。
昨日、私が彼女に声を張り上げてから、彼らはこの秘書室を通らず、研究室側から主任室へ行くようになった。
そのほうがこっちも気楽だわ……。
彼らと会うのを避けるため、音を立てないようにさっと身支度を整える。
手にした携帯が振動し、着信を知らせた。ちらっと画面を見ると、『伊集院総合法律事務所』の文字。そのまま携帯をバッグに入れる。
律己さんからもらったオイルを手首につける。気持ちを落ち着かせるため、数回深呼吸をした。
彼に調合してもらったこのオイルの香りを肺いっぱいに満たすと、すべてが大丈夫な気がする。
それでも、とにかくここを出なければ。帰り際に、彼らとは鉢合わせになりたくないから。
秘書室のドアを開け、そそくさとエレベーターホールへ急ぐ。ほどなく到着を知らせる音が鳴り、私はすぐに乗り込んだ。フレンドリーサービスの事務所へ向かうために。
1階ロビーの大きな窓。そこから見える空は、濃いオレンジ色のカーテンに覆われている。街がそっと、夜の顔をのぞかせ始めた。ふと立ち止まり、薄いジャケットを羽織る。
そのとき、バッグの中から小さな振動が伝わった。携帯が震えたように感じたが、気にも留めずにいた。
自動ドアを通り抜け、外に出た。夕暮れ時、ツツジの甘い香りが風と共にやさしく頬をくすぐる。
日中より少し気温が下がったその風に、思わず首をすくませた。無意識にジャケットの襟元をグッと掴み、いつもとは逆方向、右手にある地下鉄へ向かって歩き出す。
第一研究室にはすでに誰もいない。秘書室奥の主任室に律己さんがまだ残っている。
ドアの向こうから時折聞こえてくる笑い声。
零司くんと蘭ちゃんも一緒にいるみたい。
昨日、私が彼女に声を張り上げてから、彼らはこの秘書室を通らず、研究室側から主任室へ行くようになった。
そのほうがこっちも気楽だわ……。
彼らと会うのを避けるため、音を立てないようにさっと身支度を整える。
手にした携帯が振動し、着信を知らせた。ちらっと画面を見ると、『伊集院総合法律事務所』の文字。そのまま携帯をバッグに入れる。
律己さんからもらったオイルを手首につける。気持ちを落ち着かせるため、数回深呼吸をした。
彼に調合してもらったこのオイルの香りを肺いっぱいに満たすと、すべてが大丈夫な気がする。
それでも、とにかくここを出なければ。帰り際に、彼らとは鉢合わせになりたくないから。
秘書室のドアを開け、そそくさとエレベーターホールへ急ぐ。ほどなく到着を知らせる音が鳴り、私はすぐに乗り込んだ。フレンドリーサービスの事務所へ向かうために。
1階ロビーの大きな窓。そこから見える空は、濃いオレンジ色のカーテンに覆われている。街がそっと、夜の顔をのぞかせ始めた。ふと立ち止まり、薄いジャケットを羽織る。
そのとき、バッグの中から小さな振動が伝わった。携帯が震えたように感じたが、気にも留めずにいた。
自動ドアを通り抜け、外に出た。夕暮れ時、ツツジの甘い香りが風と共にやさしく頬をくすぐる。
日中より少し気温が下がったその風に、思わず首をすくませた。無意識にジャケットの襟元をグッと掴み、いつもとは逆方向、右手にある地下鉄へ向かって歩き出す。