【香る物語】香りの檻
浅黒い肌に似合わない、ブリーチしたような髪。それが若作りをしているように思えて、痛々しい。うっすらと浮いた青髭。血走った目。そして、ニヤリと笑う顔。

不快な気分になり、眉をひそめた。そのとき風に乗って、鼻の奥を錐(きり)で刺すような臭いが押し寄せた。

安っぽいコロンの甘さに、染みついた酒とタバコの臭い、そして体臭が混ざる。そのすべてが、胸の奥に沈めていた幼い日の『あのとき』の臭いと同じだった。

一瞬で暗黒の世界に引きずり込まれる。

夕暮れのオレンジ色の景色に、黒いレースのカーテンがかかり、目に映るものが次第に遠のいていく。聞こえる音だけが、耳の奥深くで何度もエコーを繰り返しているようだった。

ろ、ろくでなしだ……。

幼い頃に何度も嗅いだ、母を泣かせたあの男の臭い。その記憶だけが、顔を忘れた分まで鮮明だった。

喉の奥がキュッと締まる。無意識に呼吸を浅くし、息を長く止める。それを繰り返すーー自己防衛。考えるより先に、体が反応してしまう。

口の中に唾液が充満し、無理やり飲み込む。ムカムカと吐き気がせり上がる。背中を冷たい汗がゆっくりと伝い落ちていく。

過去に蓋をしてきたはずの嫌な臭いが、十数年ぶりに蘇る。悪夢が現実となり、煤(すす)のようなどす黒い煙となって私を捕らえた。
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