盛りのくまさん
「アンタ野菜も切ったことないの? 今の義務教育はどうなってんのよ!!」
そして、
彼女(彼かも)は、キッチンで白菜やニラを切らされている。なんで。
「左手はネコの手よ。そう。そう。そのまま野菜を押さえる! 肩に力入ってるわよ。抜きなさい」
困惑顔で彼女(彼かも)は野菜を切り、ごま油を敷いたフライパンで豚ひき肉を炒めはじめる。彼はそのとなりで麺を茹でる準備を始めた。どうしてこうなった。
「アタシねぇ、食品会社の営業部員だから、スーパーで実演販売することもしょっちゅうあるの」
「そ、そうなんだ」
「これが正しいヤッパ(刃物)の使い方。わかったかしら? 高校生」
「は、はい……」
得意げな彼と完全に戸惑っている彼女(彼かも)。美味しそうな匂いしてきたぁ。香ばしいお肉のにおい!
「良かった。
私、小さめのチーズケーキいっぱい買ってきたの。あとで3人で食べましょうね」

私がニコニコしながらそう言ったら、彼女(彼かも)はますます困惑した顔になった。
「か、彼女さん?」
「お友だちよ。大切なお友だち」
「そ、そう、なんですか」
「あら、そろそろ白菜を入れましょうか。硬いものから炒めていくのよ。
あらアンタ、筋が良いじゃない」
「ふふ」

いつの間にか兄妹(兄弟かも)みたいにふたりは笑いあっていた。すごい。魔法みたい。

「これ食べ終わったら阿波踊りやるわよ」
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