盛りのくまさん
「また来たのアンタ。何度来ても答えは同じよ」
ドアをはさんで彼はその声に応対する。また告白してきた子だろうか。
「あの、僕、あなたのことが忘れられなくて」
「忘れてちょうだい。迷惑よ」
(バッサリ)
「せめて最後に顔だけでも見せてください」
「イヤよ」
かわいそうだな、と思ってはいけないだろうか。ふられることになら慣れている。だから、ちょっと、今、かなり、
目の前の光景を見ていてつらい。胸がぎしぎし言う。建付けの悪い窓みたいに。
「もう来ませんから……お願いです」
ドアの向こうの声がさらに小さくなった。彼は大きくため息をついて、ドアチェーンをつけたままドアを小さく開ける。
そこには、近くの高校の制服・黒いブレザーに白いワイシャツ、赤い胸リボンとタータンチェックの赤いスカートの女の子が立っていた。年相応にもっちりしていて健康そうだ。おさげにした黒髪が清楚で。え? 女の子!?
「じゃあ帰って」
彼女(あれ? 彼女で良いん、だよね?)に顔を見せた彼は、すっとドアを閉めようとするが、そのドアのすき間に何かがはさまった。
「ひっ!」
私は思わず短い悲鳴を上げる。そ、それ、包丁!? だよね!?
「ねぇアンタ。その年で前科作る気? おやめなさい」
彼はあくまで冷静だ。自分に刃物が向けられているのに。
「一生がだいなしになるわよ」
「あなたが僕の気持ちをだいなしにしている」
(あ、あれ? やっぱ彼、かな? え、どっちなんだ。その子)
「アタシ、アンタを警察へ突き出すことにためらいなんかないわよ」
「警察なんて怖くない」
「……」
彼が黙った。話が通じない相手。背中の影がさらに大きく増幅したように見えた。
「ヤッパの使い方もわからんガキが生意気言ってんじゃないわよっ!!」
ドアをはさんで彼はその声に応対する。また告白してきた子だろうか。
「あの、僕、あなたのことが忘れられなくて」
「忘れてちょうだい。迷惑よ」
(バッサリ)
「せめて最後に顔だけでも見せてください」
「イヤよ」
かわいそうだな、と思ってはいけないだろうか。ふられることになら慣れている。だから、ちょっと、今、かなり、
目の前の光景を見ていてつらい。胸がぎしぎし言う。建付けの悪い窓みたいに。
「もう来ませんから……お願いです」
ドアの向こうの声がさらに小さくなった。彼は大きくため息をついて、ドアチェーンをつけたままドアを小さく開ける。
そこには、近くの高校の制服・黒いブレザーに白いワイシャツ、赤い胸リボンとタータンチェックの赤いスカートの女の子が立っていた。年相応にもっちりしていて健康そうだ。おさげにした黒髪が清楚で。え? 女の子!?
「じゃあ帰って」
彼女(あれ? 彼女で良いん、だよね?)に顔を見せた彼は、すっとドアを閉めようとするが、そのドアのすき間に何かがはさまった。
「ひっ!」
私は思わず短い悲鳴を上げる。そ、それ、包丁!? だよね!?
「ねぇアンタ。その年で前科作る気? おやめなさい」
彼はあくまで冷静だ。自分に刃物が向けられているのに。
「一生がだいなしになるわよ」
「あなたが僕の気持ちをだいなしにしている」
(あ、あれ? やっぱ彼、かな? え、どっちなんだ。その子)
「アタシ、アンタを警察へ突き出すことにためらいなんかないわよ」
「警察なんて怖くない」
「……」
彼が黙った。話が通じない相手。背中の影がさらに大きく増幅したように見えた。
「ヤッパの使い方もわからんガキが生意気言ってんじゃないわよっ!!」