ここが乙女ゲームの世界でも好きにさせてもらいます!
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「図書館には何度も来ていますが、二階は初めてですねぇ」
エレノアはあれからすぐさまジーナとハンクを伴い、ヴァレンティル図書館を訪れていた。場所柄小声ではあるが、ジーナの声は確実に弾んでいて、エレノアは思わず苦笑する。
「二階は歴史書がほとんどだから、私には用がないのよね」
ここヴァレンティル図書館はこの国で一番大きな国立図書館だ。エレノアはいつもここに調べものをしに来ると、隣接するティールームのキャロットケーキを食べて帰るのが密かな楽しみなのだが、さすがに今日はそんな気分ではない。
「あ、ここからもハンクが見えますね」
ジーナはハンクに小さく手を振っている。
三人でぞろぞろ二階に上がると目立つ上に、ハンクには事情を説明していないため一階で待機してもらっていた。このヴァレンティル図書館は吹き抜け構造だから、なにかあったら一階のハンクを大声で呼ぶことにしている。
「とりあえず不審な者はいませんでしたが……」
先に二階へあがったジーナが様子を確認して、階段の踊り場にいたエレノアの元へ戻ってきた。
「ありがとうジーナ……では、行きましょうか」
二階は人影もまばらで、足音や本を取り出すカタン、という音すらもほとんど聞こえてこない。それでも気を抜かず、ジーナとふたりで注意深く歩みを進める。
「三十八、三十九……っと、この通路のようですね」
三十九番通路の両棚には、歴史書が所狭しと置かれていた。辺りには仄かに甘さを含んだ、乾いた土のような古書の匂いが漂っている。
不安げに打ち鳴らし始めた胸の鼓動を落ち着かせようと、エレノアは一度大きく息を吐き出してから、棚をひとつひとつ確認していく。