断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

4

(ん、暖かい…)

 リーゼは夢の中で暖かい温もりに包まれていた。
 花のように甘い香りが全身を包み、とても心地が良かった。

 だが、その温もりはリーゼから離れていこうする。リーゼは手放したくない一心で、()()()()()にしがみついた。

「随分と積極的だな」

 やけにハッキリと聞こえた声に、リーゼの意識が浮上してきた。それでも、まだ頭ははっきりせずボヤ~としている。

「目が覚めたか?」

 優しく頭を撫でられる感触がして、あまりの気持ちよさについつい身体を預けてしまった。

(頭を撫でられるなんていつぶりだろう……)

 ニマニマしながら顔を埋めていた所で、ようやくハッとした。

 勢いよく体を起こすと、そこには残念そうにしながらも満足気に微笑むウィルフレッドの姿があった。

「な、な、な、ななななななッ!!!!!!!!」

 顔面蒼白なになりながら、声にならない声で訴える。

 シャツがはだけ、逞しい胸板が間から見え隠れして目のやり場に困る。更に、髪を下ろして無防備なウィルフレッドは控えめに言っても色気が半端ない。深夜帯にあるべき姿で寝起きに見ていいもんじゃない。

 そんなウィルフレッドを目の前にして、リーゼの顔は次第に青から赤へと変わっていった。

「ふっ、朝から忙しない顔だな」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!?──と言うか、なんでいるんです!?いくら仮の婚約者とはいえ、女性の寝室に断りなく入るのは紳士ではありませんよ!!」

 冗談でもやりすぎだと力強く訴えたが、ウィルフレッドは詫びいれる様子はこれっぽちもないらしい。

「手を出した訳ではないんだし、一緒に寝るぐらいいいだろ?それに、離してくれなかったのはそちらだろ」

 起きる前に離れるつもりだったと言い訳まがいの事を言われても説得力がない。

「そんなに俺から離れるのが惜しかったか?」
「──ッ!!」

 口元を吊り上げながら言われて、思わず言葉に詰まってしまった。

 正直なところ、あんなによく眠れたのは久々かもしれない。人の温もりなんて幼い頃以来で、その心地よさすらも忘れていた。

「なんなら、毎日一緒に寝てやろうか?」
「ッ!!け、結構です!!」

(完全に遊んでやがる!!)

 リーゼは真赤に染まった顔を隠しながら、ウィルフレッドの背中を押して部屋を出るように促した。

 鍵がかかってるから大丈夫じゃなかったの!?と思いながら、ウィルフレッドの私室に繋がるドアを開けると部屋に無理矢理押し込んだ。

「もう、許可なく入ってこないでください!!」

 バンッ!!と勢いよくドアを閉めると、隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。

 リーゼは壁に背中を預け、力なくその場にしゃがみこみ「朝から疲れた……」と誰もいない部屋を眺めながら呟いた。


 ❊❊❊


「叔父上!!」

 ウィルフレッドが城の中を歩いていると、背後から大声で引き留める声が聞こえた。
 振り返ると、焦っているような怒っているような表情のロドルフが駆け寄って来た。

「ロドルフか。なんだ?」
「なんだじゃありません!!本気でリーゼと婚約するつもりですか!?」
「するんじゃなく、したんだ」
「何故リーゼなのです!?叔父上ならば他の者がもっといたはずだ!!」

 叫ぶロドルフにウィルフレッドは目を細め、冷たい視線を向ける。その視線に怯んだ様子を見せたが、後には退かないらしい。

「彼女ほど魅力的でいい女はいない」
「あの女はアリアナを陰で虐げていた卑劣な女ですよ!?」

 未だにそんな事を言っているロドルフにウィルフレッドは溜息が出た。
 こう言えば諦めるとでも思っているのか、ロドルフは顔を引き攣らせながも笑みを浮かべている。

 これが甥だと思うと頭が痛い。

「私は叔父上を心配して…」
「黙れ」

 腹の底に響くような低い声と凍てつくような冷たい視線に、ロドルフはゾクッと背筋が凍る感覚に陥った。

「いつからお前は俺を心配する側になったんだ?」
「あ…」
「これでも人を見る目はしっかりしている。……少なくともお前よりは目が利くと思うが?」

 騎士団長であるウィルフレッドの言葉は説得力があり、ロドルフは悔しそうに唇を噛み締める事しか出来ずにいる。

「だが、そのおかげで彼女と出会えた。その点では感謝はしている」

 婚約破棄をしてくれたおかげで今があるのだから。

「未練がましい事をするな。自分が決めた事だろ?俺を心配していると言うが、傍から見れば見苦しいだけだ。──それに、彼女とは既に一夜を共にしている」
「は?」

 ロドルフは目玉が落ちそうなほど目を見開いている。

「き、騎士団長ともあろう者が、無理矢理ことに及んだんですか!?」
「失礼な事を言うな。朝まで離してくれなかったのは彼女の方だぞ?」

 クスッと困った様に笑うと、ロドルフは信じられないとブツブツ呟きながらその場にへたりこんでしまった。

(牽制するつもりで言ったが…)

 まあ、嘘は言っていないし、勘違いしたのはロドルフの方だ。

 言葉というのは恐ろしい。

「そんな訳で今更返せと言われても無理だな」と付け加え、恨めしそうに睨みつけるロドルフに背を向けて、その場を後にした。

 中庭の見える回廊を歩いていると「ウィルフレッド様」と呼び止められた。

 今度は何だ?と見ると、中庭からアリアナが顔を出した。

「宜しければ、お茶をご一緒なさいません?」

 甘えるような上目遣いで、ウィルフレッドの傍に寄ってきた。

(次から次へと…)

 ウィルフレッドは皺の寄る眉間に手をやった。
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