断罪令嬢、証拠品がアレでしたわ!
 気がつくと、どこかの部屋。
 背中は冷たい壁に押しつけられていた。
 逃げ場のない距離に、レオンハルト様が立っている。

 長い影がわたくしの肩を覆い、息が触れそうなほど近い。
 「……詳しく説明しろ」
 
 彼は、わたくしを壁際に追い詰めるように立ち、冷たい眼差しで見下ろしている。

 「そ、それは……! お、お姉さまの無念を晴らそうと……証拠を集めようとしただけでして……!」
 涙目になりながら、わたくしは事の経緯を必死に話した。

 レオンハルト様はしばらく黙っていたが、やがて小さく息をついた。
「……私は、そのセレスティアという女性を知らない。
 それに、私は女性と深い関係になったことは——」
 そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。

「で、ですわよねぇ……! どう考えてもスケコマシのすっとこどっこいは、レオナルド様でしたわ……!」

「わたくしと来たら……“セレスティアのレオン様”と聞いて、勝手にレオンハルト様のことだと……っ。
 本当に、本当に申し訳ございませんでした……!」

 レオンハルト様の表情が、ふっと和らいだ。
「それで……君が私に近づいたのは、本当に断罪のためだけだったのか?
 あの笑顔も、涙も……全部、嘘だったのか?」

「最初は……そうでした。
 でも……お姉さまの敵と知っていても……あなたのことを想う気持ちは、あったかもしれません……」
 唇が震える。
「あなたが、卒業舞踏会のパートナーに誘ってくださったときは……本当は、嬉しくて……」

 その瞬間。
 レオンハルト様の腕が伸び、わたくしの腰を強く引き寄せた。

 「きゃっ……!」

 気づけば、壁と彼の腕に閉じ込められていた。
 距離が、近い。あまりにも。
 泣きそうなくらい嬉しそうなレオンハルト様の端正な顔が、至近距離に迫る。

 「……その言葉が、聞きたかった」

 低く囁く声に、胸が跳ねた。
 次の瞬間、彼の指先がわたくしの顎をくいっと持ち上げる。

 (ま、まさか……キスを!?)
 心臓が、壊れそうなくらい鳴る。

 ぎゅっと目を閉じたそのとき——
 唇が降りたのは、まさかの……おでこ。

 「ふぁ……っ!?」
 変な声が出てしまい、かあああと頬が熱を帯びる。

 そんなわたくしを見て、レオンハルト様は小さく笑った。
 まるで、愛しくてたまらないというように。

 そして今度は、そっと——彼の唇がわたくしの唇を塞いだ。
 驚くほど優しくて、けれど抗えないほどの熱を帯びていた。

 ——ほんの一瞬なのに、永遠みたいに長く感じた。
 柔らかくて、温かくて、世界の音が全部遠のいていく。

 胸が、ばくん、と跳ねた。

 「……なーーーーっ!?」
 声にならない悲鳴を上げ、わたくしはその場に崩れ落ちた。

 「な、なんてことを……!? く、唇に……なんてっ」

 真っ赤になって、レオンハルト様を睨む。
 「責任は取ってくださるのでしょうね!!」

 レオンハルト様はふっと微笑み、静かに答えた。
 「もちろんだ。今すぐ——君に婚約を申し込みたい」

 その言葉と同時に、彼はわたくしの目の前で——片膝をついた。

 「れ、レオンハルト様……?」

 白手袋の指先が、そっとわたくしの手を取る。
 そして、その手の甲へと唇が触れた。
 柔らかく、慎ましく、それでいて、確かな熱を宿した口づけ。

 顔を上げた彼の琥珀色の瞳が、至近距離でわたくしを見つめていた。
 その美しい顔が、あまりに近くて——息が止まりそうになる。

 予想だにしていなかった言葉が、胸の奥にそっと降り落ちた。
 理解が追いつかず、わたくしはしばらくポカンとしてしまう。

 やがて言葉の意味が染み渡り、頬が一気に熱を帯びた。
 「……っ!!」

 心臓の音が、ひときわ大きく鳴り響く。
 まさか——勘違いの断罪から始まる恋があるなんて。

 思わず、ふっと笑みがこぼれた。


 
 ——Fin——
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