「庭の千草」狂詩曲
理久は詩月が扱いにくいガタニーニの「シレーナ」をどれほど弾きこなしているかを知らないのは、もったいないと思った。

リリィの形見のヴァイオリン、グルネリはストラディバリに並ぶ名器だ。

それはじゅうぶん知っている。

でも理久には、曰くつきのヴァイオリンと言われるガダニーニの「シレーナ」で奏でる詩月の演奏がしっくりくる。

詩月が今、グルネリしか持ってきていないのが、残念だった。

それにしても、なんという優しく暖かい音を出すのか。

理久は涙腺が緩みそうになるのを堪えた、こみあげてくる思いを抑えた。

エリザベートコンクールのファイナルで演奏した「懐かしい土地の思い出」は、この演奏以上に感情がこもった演奏だったに違いない。

こんなものではなかっただろうと、想像できた。

詩月は曲を演奏し終えると再度、胸の前で十字を切り、祈りを捧げた。

「理久。汗だくだ、ありがとう」
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