「庭の千草」狂詩曲
ノスタルジックで哀愁漂う旋律が、理久の胸の奥を熱くした。

優しさと暖かさが身体を包みこむ。

理久は生前に、カフェ・モルダウで珈琲を飲みながら、学生たちの演奏に耳を傾けていたリリィの笑顔を思い浮かべた。

エリザベートコンクールのヴァイオリン部門。

理久は詩月がリリィの形見のヴァイオリンで演奏したことを知らなかった。

詩月が普段から使っているのは、ガタニーニの「シレーナ」だ。

詩月は使い慣れたヴァイオリンで、1次からファイナルまで演奏したものと思っていた。

「エリザベートのヴァイオリン部門に、リリィが果たせなかったファイナル進出の仇討をしに行く」

詩月がエリザベートコンクールに挑戦する理由だった。

理久はリリィの形見のヴァイオリンで挑んだと知り、律儀だというかバカ正直が過ぎると思った。

審査員たちは詩月がリリィのグルネリで演奏したことまでは、気づいていないだろうと思った。
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