「庭の千草」狂詩曲
「薄いよりいいよ」

「貢。詩月は退院したら、モルダウで1曲弾きたいそうだ。解るか?」

「あっ……ああ。周桜が退院したら、伝える。まだ難しい曲は無理みたいだけどな」

貢は、一呼吸遅れで緒方郁子の顔を思い浮かべた。

詩月と郁子の実力差は、誰が演奏を聴いても最早(もはや)、明らかだ。

ライバルと云うレベルではない。

貢にはそれでも、詩月が共に演奏したいと思う心境が理解できなかった。

ーー周桜はまだ郁と共に、同じコンクールに出場し、演奏を競い合いたいと思っているのだろうか。周桜は郁が元通り弾けるようになると信じているのだろうか。郁が周桜の実力に追いつくと思っているのだろうか。いつ実現するかどうかもわからないほど、実力差がついてしまっているのに

貢は口には出さなかった。
< 241 / 359 >

この作品をシェア

pagetop