「庭の千草」狂詩曲
「ケルントナー通りのヴァイオリン王子『詩月』さんですよね」

「そうだけど、何か」

店員は詩月が答えると、カウンターから走り出てきた。

「俺、めっちゃファンなんです」

詩月の右手を両手で握りしめて、離さない。

「エリザベートコンクールのピアノ演奏も配信動画を観ました。あの演奏で入賞圏外なんてあり得ないと思いました」

「ありがとう」

詩月は言って、握りしめられた手を抜き取ろうとしていた。

「あの、嬉しいんだけど手は離そうか」

離してくれない両手に、店員の顔を見つめて言ってみた。

「あ……つい、興奮して」

店員がパッと手を離して、制服を脱いだ。

「後ろにサイン、貰えませんか?」

Tシャツ姿になり、カウンターのペン立てから油性ペンを抜き取り、背中を向けた。

「日本語、ドイツ語 どっち?」

「できたら両方お願いします」

「了解」

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