「庭の千草」狂詩曲
もしも、ダフィット先生が肺がんの宣告を受けていなかったら、そう思うと迂闊に言えなかった。

ダフィット教授から指の調子を聞かれるたび、「順調です」と答えた。

「課題を元のレベルに戻して下さい」とお願いした。

一方で診察のたび、痛み止めの薬は増えていった。

腫れた関節に湿布薬を貼ったり、保冷剤で冷やしたりしながら、練習した。

ダフィット先生は男寡(おとこやもめ)だった。

離婚の理由は知らない。

奥さんとの間に子供は居ないと聞いた。

ダフィット先生が体調を崩すたび、心配でたまらなかった。

ご自宅へ伺って看病したり、食事を作ったり、泊まりでお世話することもある。

ダフィット先生との指導だけではない時間が増えると、知らなかった部分が見えてきた。

お人柄を知ると、厳しい人だという印象だけではなく本当は優しい人だということも解った。

< 65 / 359 >

この作品をシェア

pagetop