嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ヴァルト様、すこし寝室を覗いてきてもよろしいですか?」
「ああ、ゆっくり見てくるといい。その間、オレは先ほどの家令と少し話をしてくる」

 膝を降り、ジークヴァルトを置いて寝室の扉を開ける。ずっと使われていなかったはずの部屋は、やはり清浄な空気に包まれていた。

「ベッドは子ども仕様ね……」

 小さめの寝台の(ふち)に腰かけると、スプリングが心地よく跳ねた。ダーミッシュ家に養子に入るまで、ここで毎日眠っていたのだろう。

 しんとした部屋を見回して、リーゼロッテは座った姿勢から行儀悪く体を横に倒した。頭をふかふかの枕に沈め、ふぅと(ひそ)やかに息をつく。

「やっぱりちょっと疲れたかも……」

 (まぶた)を閉じると心地よいまどろみが訪れる。このままでは本当に眠ってしまいそうで、リーゼロッテは無理やりに目を開けた。横たわったまま降ろした足をプラプラさせながら、横向きの部屋をぼんやり見やる。

(あ、この景色も知ってる……)

 肩までもぐりこんだ上かけの毛布が心地よすぎて、起きていたくてもいつの間にか瞼が閉じてしまう。頑張って目を見開いた先にいるのは、やさしく微笑む母親だ。その後ろから父イグナーツが、包み込むように母を抱きしめている。

「マルグリット母様……」

 唯一残る母の思い出は、ここで見た風景なのだ。急に郷愁(きょうしゅう)に駆られて、リーゼロッテはなんだか寂しくなってしまった。

 身を起こして寝室から出る。

「ジークヴァルト様……?」

 戻った居間を見回すも、その姿は見つからない。先ほどルルに話があると言っていたので、まだ戻ってきていないようだ。
 耳の守り石に触れると、不思議と不安が和らいだ。ジークヴァルトはすぐ近くにいる。そんな気配が伝わってくる。

 感じる青の波動を頼りに、リーゼロッテは子ども部屋を出た。進むにつれて、ジークヴァルトに近づいているのがよく分かった。もうすぐそこにいる。その確信の下、リーゼロッテの足はおのずと速くなっていく。

 ぴりっと背筋に悪寒が走った気がして、驚きで立ち止まった。その嫌な気配は自分を追うように、ゆっくりと、だが確実にここへと迫っている。そんなはずはないと言い聞かせながら、リーゼロッテは恐る恐る振り返った。

「おや、これは奇遇ですね、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン」

 その声に、あの夜の悪夢が蘇る。
 背後に(たたず)んでいたのは、かつてリーゼロッテを(さら)った張本人――盲目の神官レミュリオだった。






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