嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あれ? 言ってなかったっけ。あのあとルチアのこと、ちゃんと見つけたんだ」
「聞いてないわよぉう! そんな大事なこと今まで黙ってたなんて、カイ坊ちゃんの人でなしぃっ」
「ごめんごめん、オレもいろいろと忙しくてさ」

 おいおいと泣き出したフィンを、ダンがやさしく抱き寄せる。

 二年前、ルチアはまだ市井(しせい)の少女で、そのとき唯一と言えるハインリヒの託宣の相手候補だった。

(今思えば笑い話だな)

 あのルチアが王妃としてハインリヒと並び立つ姿など、どうして想像できようか。

「フィンはずっとルチア殿を心配してやしたからね」
「でも元気にしてるならよかったわん。もちろんアニサも一緒なのよねん?」
「いや、ルチアの母親は亡くなったんだ。今、彼女は里親の元で暮らしてる」
「そう……だったのん……」

 再びフィンは涙ぐんだ。

「ああ、ルチアに会いたいわん。あの娘、慌てて出ていったみたいで、いっぱい忘れ物してったのよん。母さんとの思い出の品もあるみたいだから、捨てるに捨てられなくってぇ」
「ルチア殿が使っていた屋根裏部屋は、そのままにしてあるんでさぁ。カイ坊ちゃん、フィンのためにも、一度ルチア殿をここに連れてきてくだせぇ」
「ルチアが今いるところって、王都から離れてるからなぁ。うん、まぁ、里親先がOK出したらそのうち連れてくるよ」

 白の夜会前には、ブルーメ子爵も余裕をもって王都に移動するだろう。そのときにでも連れ出せるかもしれない。

「にしてもよく見つかりやしたな。ルチア殿を国中探し回ったんで?」
「まぁそんなとこ」

 イグナーツの手引きで、ルチアは忽然(こつぜん)といなくなった。当時ようやく見つかった有力候補を奪われて、さすがのカイも(いきどお)ったのを覚えている。結局ルチアはダーミッシュ領に隠されていた。リーゼロッテとつながりがなかったら、カイはいまだにルチアのことを探し回っていたかもしれない。

「まぁあ! 愛のチカラねん!」
「そういえばルチア殿は、カイ坊ちゃんの運命の幼女でやしたね」
「ん? 何の話?」

 キョトンとすると、フィンが不満げな顔になる。

「カイ坊ちゃんがそう言ってルチアを連れてきたんじゃないのん! 忘れたなんて言わせないわんっ」

 そんなこと言ったっけ?
 口まで出かかった言葉を、カイは笑顔で飲み込んだ。下町で出会ったルチアをこんがり亭に連れてくるのに、何か調子のいいことを言ったのかもしれない。

(はは、オレならそれくらいのこと言いそうだ)

 その言葉もまた、カイはしれっと飲み込んだ。







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