嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第10話 星に堕ちる者 - 中編 -

 こんな寒い日はいつも、ふたり身を寄せ合って眠った。暖炉もない部屋の硬い寝台で、薄い毛布の中、あたたかな腕が包み込む。

『おやすみ。わたしの可愛いルチア』

 夢うつつに、口づけが(ひたい)に落とされる。世界のどこよりも、ルチアが安心できる場所だ。
 胸にすり寄り、やさしいまどろみに沈んでいった。目覚めた朝もその口づけが、この額に落とされることを疑うこともなく――


 覚醒しきらないあやふやな意識の中、ルチアは(まぶた)をうすく開いた。その先に見えたのは豪華な天蓋(てんがい)で。仰向(あおむ)ける寝台は柔らかく、ふわふわの寝心地はまるで天国にいるようだ。

「母さん……」

 泣いている自覚もないまま、生温かい雫が目じりを伝う。

 ブルーメ子爵家の養子となってから、来る日も来る日も信じられないほど贅沢ができている。暖かな部屋で眠れ、待っているだけで食べきれないほどのご馳走(ちそう)が目の前に運ばれる。いつか絵本で読んだお姫様のような生活は、もう一年以上続いていた。
 なのに、いつまで経っても違和感が(ぬぐ)えない。ここは自分の居場所じゃない。日を増すごとに、そんな思いばかりが(ふく)らんでいく。

(――あの頃に帰りたい)

 物心ついたときから、ルチアは国中を転々としながら暮らしてきた。根無し草のような生活は、貧しくともやりたいことがいっぱいで、毎日が輝き満たされていた。何よりそこにはアニサがいた。いつだってルチアを抱きしめてくれる、穏やかな笑顔の母が。

 体を起こし、清潔なシーツを握りしめた。滑り落ちた涙が、真っ白い生地に暗いしみを広げていく。

「贅沢なんてできなくていい。今すぐ、今すぐ戻りたいよ、母さん……」

 (うつむ)いて嗚咽(おえつ)をこらえていると、小鬼が一匹、寝台によじ登ってきた。滑りの良いリネンを懸命に掴み、瞳を潤ませルチアをのぞき込んでくる。

「わたしを分かってくれるのはあなただけね」

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