嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
ザイデル公爵家の末娘としてイジドーラは生を受けた。早くに母親を亡くしたこともあり、周囲には随分と甘やかされて育ってきた。殊のほか年の離れた姉に可愛がられ、イジドーラにとってベアトリーセは母親代わりの存在だ。
元々内向的な性格をしていたイジドーラだ。一日中本を読みふけるような少女時代を過ごし、幼い時分はベアトリーセにせがんでは、お姫様が出てくるような絵本を何度も読み聞かせてもらったものだ。
平和なザイデル家の歯車が狂い始めたのは、父親が急逝したのがきっかけだった。上の兄が跡目を継いだのを境に、イジドーラは厳しくしつけられるようになった。
社交の場に連れだされ、常に相手の上に立つ振る舞いを強いられる。それはかなりの負担であり、苦痛以外の何物でもなかった。公爵家の人間として、政略の駒になるのは当然のこと。野心家の兄にそう教え込まれ、苦手な社交術もやっとの思いで身につけた。
独善的な長兄とそりが合わなかった次兄は、家を捨てるように屋敷から出ていった。そんな不協和音が続く中、ベアトリーセだけはひとり変わらなかった。慈善活動にいそしみ、孤児院へ頻繁に足を運ぶ。神殿への寄付にも熱心で、姉が贅沢なものに興味を示すことは一切なかった。
対照的にイジドーラといえば、ザイデル家の威信を見せつけるため、茶会や舞踏会に駆り出される日々を送っていた。派手に着飾り、笑顔の仮面を張り付ける。華やかな社交界で虚勢を張り続ける毎日に、精神がどんどん麻痺していった。
その方がいっそ気が楽だったし、何より恐ろしい兄に逆らうことなどできはしない。父の事故死すら、兄の謀略だった。そんな不穏な噂を耳にして、あの兄ならやり兼ねないと増々恐怖を募らせた。
社交界から隔絶して過ごすベアトリーセを、羨ましく思う気持ちもあった。だが姉には幼少の折から年の離れた婚約者がいた。その相手こそがデルプフェルト侯爵だ。
蛇のような異様な雰囲気を持つ侯爵が、イジドーラは昔から苦手だった。姉との婚姻を控えた身でありながら、愛人を多く抱えているような男だ。あまつさえ、その間に幾人も子をなしているというのだから、非常識にも程があるだろう。
年に数度、ベアトリーセは侯爵と連れ立って出かけていた。姉はいずれあの男の妻になるのだ。侯爵にエスコートされるベアトリーセを見送るたびに、イジドーラは同情を禁じ得なかった。
ザイデル公爵家の末娘としてイジドーラは生を受けた。早くに母親を亡くしたこともあり、周囲には随分と甘やかされて育ってきた。殊のほか年の離れた姉に可愛がられ、イジドーラにとってベアトリーセは母親代わりの存在だ。
元々内向的な性格をしていたイジドーラだ。一日中本を読みふけるような少女時代を過ごし、幼い時分はベアトリーセにせがんでは、お姫様が出てくるような絵本を何度も読み聞かせてもらったものだ。
平和なザイデル家の歯車が狂い始めたのは、父親が急逝したのがきっかけだった。上の兄が跡目を継いだのを境に、イジドーラは厳しくしつけられるようになった。
社交の場に連れだされ、常に相手の上に立つ振る舞いを強いられる。それはかなりの負担であり、苦痛以外の何物でもなかった。公爵家の人間として、政略の駒になるのは当然のこと。野心家の兄にそう教え込まれ、苦手な社交術もやっとの思いで身につけた。
独善的な長兄とそりが合わなかった次兄は、家を捨てるように屋敷から出ていった。そんな不協和音が続く中、ベアトリーセだけはひとり変わらなかった。慈善活動にいそしみ、孤児院へ頻繁に足を運ぶ。神殿への寄付にも熱心で、姉が贅沢なものに興味を示すことは一切なかった。
対照的にイジドーラといえば、ザイデル家の威信を見せつけるため、茶会や舞踏会に駆り出される日々を送っていた。派手に着飾り、笑顔の仮面を張り付ける。華やかな社交界で虚勢を張り続ける毎日に、精神がどんどん麻痺していった。
その方がいっそ気が楽だったし、何より恐ろしい兄に逆らうことなどできはしない。父の事故死すら、兄の謀略だった。そんな不穏な噂を耳にして、あの兄ならやり兼ねないと増々恐怖を募らせた。
社交界から隔絶して過ごすベアトリーセを、羨ましく思う気持ちもあった。だが姉には幼少の折から年の離れた婚約者がいた。その相手こそがデルプフェルト侯爵だ。
蛇のような異様な雰囲気を持つ侯爵が、イジドーラは昔から苦手だった。姉との婚姻を控えた身でありながら、愛人を多く抱えているような男だ。あまつさえ、その間に幾人も子をなしているというのだから、非常識にも程があるだろう。
年に数度、ベアトリーセは侯爵と連れ立って出かけていた。姉はいずれあの男の妻になるのだ。侯爵にエスコートされるベアトリーセを見送るたびに、イジドーラは同情を禁じ得なかった。