嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ほどなくしてベアトリーセはデルプフェルト家へと嫁いでいった。姉のいなくなったザイデル家は、ますます重苦しい雰囲気に包まれた。
 兄の下す命令のまま、イジドーラは操り人形のように日々を過ごすしかない。いずれ自分も道具として、どこか都合の良い家に嫁ぐことになるのだろう。そんなあきらめの境地でいたある日、ベアトリーセの懐妊の知らせが届いた。

 無事に男児を出産したとの吉報に、イジドーラはすぐさま会いに行った。デルプフェルト侯爵夫人となった姉は、あの日、いつもと変わらぬ慈愛の瞳で赤子をその胸に抱いていた。

「なんて可愛らしい男の子なの!」

 赤ん坊は姉譲りの灰色の髪をしていた。父親似でなくてよかったと、心から思ったイジドーラだ。

「この子にはカイと名付けたの」
「カイ……いい名前ね。わたくしはあなたの叔母様よ」

 お包みからはみ出した足をばたつかせ、カイはじっと見つめ返してくる。つぶらな瞳はザイデル家にはない色だ。美しい琥珀のようだとイジドーラの口元が(ほころ)んだ。

「あら? この子、龍の祝福が……」

 ぷにぷにの太ももの内側に、丸い文様のようなあざを見つけた。この国では生まれつきのあざは、龍からの贈り物として喜ばしいものとされている。

「綺麗な模様ね。こんなにも立派で美しい祝福は見たことがないわ」
「ただの祝福ではないのよ。これは龍のあざと言うの」
「龍のあざ?」
「ええ、イジィは知らないだろうけど。龍のあざはこの子が青龍から選ばれた(あかし)

 陶酔(とうすい)の瞳でベアトリーセは胸に抱くカイを見やった。

「なんて誇らしいのかしら……」

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