嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 それから数か月が過ぎ、兄の元でイジドーラは居丈高(いたけだか)な令嬢を演じ続けていた。
 心の休まらない日々に、ベアトリーセの幸せに満ちた笑顔が頭をよぎっては消えていく。ザイデル家を出るために、自分も早くどこかへ嫁いでしまいたい。そんな思いが募っていたある日、イジドーラの元に一通の手紙が届けられた。

 今すぐベアトリーセに会いに来て欲しい。姉付きの侍女からの要領の得ない手紙に、イジドーラは何事かとデルプフェルト家へと急ぎ向かった。

「何があったというの?」
「それが坊ちゃまを連れて王城に行かれて以来、ベアトリーセ様のご様子が……」
「カイが体調でも崩したというわけ?」
「いいえ、カイ坊ちゃまではなく、ベアトリーセ様が、その、坊ちゃまを……」
「もういいわ。お姉様に直接聞くから早く案内なさい」

 そのとき何かが割れる音が耳に痛く響いた。同時に女性の悲鳴と赤ん坊の泣き声が重なって、イジドーラは侍女を押しのけ、奥の部屋へと駆け込んだ。

 そこにはかつてなく取り乱したベアトリーセがいた。その目の前には、カイを胸に抱く乳母がおろおろと立っている。泣き続ける我が子に手を伸ばすでもなく、ベアトリーセは青ざめた顔で立ち尽くしていた。

「お姉様、一体どうなさったの……?」

 泣き止まないカイを乳母から受け取り、あやしながら姉に託そうとした。小さく首を振って、ベアトリーセは近づいた分だけ後退(あとずさ)る。

「いや、やめて、その子をわたくしに近づけないで」
「お姉様……?」

 なおも一歩近づくと、ぶつかったテーブルの上をベアトリーセは後ろ手に探った。唇をわななかせながら、つかみ取った一輪()しを振り上げる。

「近づけないでって言ってるでしょう!」
「きゃあっ」

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