嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
呼び声に、はっと顔を起こす。目の前には一歳になったハインリヒ王子を胸に抱くジルケがいた。その奥でマルグリット・ラウエンシュタインが物静かに座っている。呼ばれた王妃の離宮で、ぼんやりと考え事をしていたことにイジドーラは気がついた。
「セレスティーヌ様がお声をかけておられますわよ?」
「イジィ、どうかした? さいきん、かんがえごと、おおい……」
片言でそこまで言ったセレスティーヌ王妃が、異国の言葉を続けて発した。隣国の王女だった彼女は、この国に輿入れして五年ほど経過している。日常会話に支障はなくなったものの、いまだ通訳が必要な場面も多かった。
そんな時はジルケの出番だ。隣国との外交を任されているクラッセン家に嫁ぐことが決まっているジルケは、幼少期からアランシーヌ語を学んできた。反してイジドーラは多少聞き取れるくらいで、ほぼ話せないでいる。
「セレスティーヌ様はイジドーラ様のことをとても心配されているわ。理由を聞かせて欲しいとおっしゃっています」
ジルケにそう言われ、イジドーラは躊躇した。様子のおかしい姉のことは、他家の耳に入れていい話ではない。この場を乗り切るための言葉を探すが、上手い言い訳が見つからなかった。
再びセレスティーヌが何事かをしゃべると、ジルケは静かに頷いた。
「マルグリット様。セレスティーヌ様がイジドーラ様とふたりきりにして欲しいとおっしゃっていますわ」
「御意」
音もなく立ち上がると、マルグリットは礼を取り部屋から出ていった。ハインリヒ王子を抱いたまま、ジルケがそれに続いていく。
残されたイジドーラは、どうしたものかとセレスティーヌの美しい顔を見た。姉の奇行を王妃に知られたとなると、ザイデル公爵家の弱みになり得るかもしれない。王妃の身辺を探りつつ、付け入る隙を見つけるように。兄からはそう命令されているため、やはり話すのは得策ではないだろう。
「セレスティーヌ様がお声をかけておられますわよ?」
「イジィ、どうかした? さいきん、かんがえごと、おおい……」
片言でそこまで言ったセレスティーヌ王妃が、異国の言葉を続けて発した。隣国の王女だった彼女は、この国に輿入れして五年ほど経過している。日常会話に支障はなくなったものの、いまだ通訳が必要な場面も多かった。
そんな時はジルケの出番だ。隣国との外交を任されているクラッセン家に嫁ぐことが決まっているジルケは、幼少期からアランシーヌ語を学んできた。反してイジドーラは多少聞き取れるくらいで、ほぼ話せないでいる。
「セレスティーヌ様はイジドーラ様のことをとても心配されているわ。理由を聞かせて欲しいとおっしゃっています」
ジルケにそう言われ、イジドーラは躊躇した。様子のおかしい姉のことは、他家の耳に入れていい話ではない。この場を乗り切るための言葉を探すが、上手い言い訳が見つからなかった。
再びセレスティーヌが何事かをしゃべると、ジルケは静かに頷いた。
「マルグリット様。セレスティーヌ様がイジドーラ様とふたりきりにして欲しいとおっしゃっていますわ」
「御意」
音もなく立ち上がると、マルグリットは礼を取り部屋から出ていった。ハインリヒ王子を抱いたまま、ジルケがそれに続いていく。
残されたイジドーラは、どうしたものかとセレスティーヌの美しい顔を見た。姉の奇行を王妃に知られたとなると、ザイデル公爵家の弱みになり得るかもしれない。王妃の身辺を探りつつ、付け入る隙を見つけるように。兄からはそう命令されているため、やはり話すのは得策ではないだろう。