嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第2話 若奥様の奮闘
ジークヴァルトはいつでも自分を見ている。本当の意味でそう思ったのは、夫婦となって毎晩一緒に眠るようになってからだ。
再会したての初めのころは、よく目が合うなくらいの感覚だった。だが思い返すとどうだろう? ジークヴァルトの顔を見て、自分を見ていなかったときの方が数少ない気がした。
ふと夜中に目覚めたときも、いつだって青い瞳はこちらに向けられている。やさしく口づけられて、眠りの淵に落ちていく。それがとてもうれしくて――
人の気配がして身を起こした。ぼんやりと青を探す。触れた隣のリネンに、残る温もりはなかった。
「おはようございます。奥様、お目覚めになられましたか?」
「おはよう、エラ。ジークヴァルト様は……?」
「今朝も早くに執務に行かれました」
「そう……」
昨夜は先に寝てしまい、途中目覚めることもなく、そのまま朝を迎えてしまったようだ。寝台を降り、エラとともに身支度を始める。月のものでないときに、ジークヴァルトと身を繋げなかったのは初めてかもしれない。
(わたしが眠っていたから、起こさないでいてくれたのね)
それでも戻ってきたときに、ひと声かけてほしかった。夕べは顔すら見られなくて、それが何だかさみしく思えてしまう。
「せめて夜中に目覚めればよかった……」
そうすればあの青の瞳にキスしてもらえたのに。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ、何でもないの」
そもそも眠りこけていた自分が悪いのだ。今夜はジークヴァルトが戻るまで、眠らずに起きていようと心に決める。
朝食を済ませ、サロンに移動した。午前の夏の日差しがまぶしく映る。日中にここへと赴くのは、月のものが来ている間以外では、やはり始めてのことだった。
やることもなくのんびりお茶を飲んでいると、使用人が忙しげに何度も廊下を行きかった。
「今日はなんだかバタバタしているみたいね」
「それが昨夜までの長雨で、領地のどこかに災害が起きたらしくて……」
「え? 災害が?」
「どの程度の被害か今調査中とのことです。旦那様も現地に向かったと先ほど聞きました」
「ヴァルト様が自ら……」
窓の外を見やると、さわやかな晴天が広がっている。それでも所々に残る水たまりが、振った雨の多さを告げていた。
「ねぇエラ、わたくしに何かできることはないかしら?」
「奥様はゆっくり過ごすようにと旦那様から仰せつかっております。どうぞご心配なさらず、旦那様のお帰りをお待ちください」
「でも……」
リーゼロッテはフーゲンベルク公爵夫人となった。領地の危機にのほほんとお茶をしているなど、自覚が足りないにも程があるだろう。
「この時期に何がしか起きるのは、毎年のことのようですから。マテアスもおりますし、任せておけば問題ございませんよ」
エラにはそう言われたものの、このままティータイムをたのしむ気分にもなれなくて、リーゼロッテは早々に部屋へと戻ったのだった。
再会したての初めのころは、よく目が合うなくらいの感覚だった。だが思い返すとどうだろう? ジークヴァルトの顔を見て、自分を見ていなかったときの方が数少ない気がした。
ふと夜中に目覚めたときも、いつだって青い瞳はこちらに向けられている。やさしく口づけられて、眠りの淵に落ちていく。それがとてもうれしくて――
人の気配がして身を起こした。ぼんやりと青を探す。触れた隣のリネンに、残る温もりはなかった。
「おはようございます。奥様、お目覚めになられましたか?」
「おはよう、エラ。ジークヴァルト様は……?」
「今朝も早くに執務に行かれました」
「そう……」
昨夜は先に寝てしまい、途中目覚めることもなく、そのまま朝を迎えてしまったようだ。寝台を降り、エラとともに身支度を始める。月のものでないときに、ジークヴァルトと身を繋げなかったのは初めてかもしれない。
(わたしが眠っていたから、起こさないでいてくれたのね)
それでも戻ってきたときに、ひと声かけてほしかった。夕べは顔すら見られなくて、それが何だかさみしく思えてしまう。
「せめて夜中に目覚めればよかった……」
そうすればあの青の瞳にキスしてもらえたのに。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ、何でもないの」
そもそも眠りこけていた自分が悪いのだ。今夜はジークヴァルトが戻るまで、眠らずに起きていようと心に決める。
朝食を済ませ、サロンに移動した。午前の夏の日差しがまぶしく映る。日中にここへと赴くのは、月のものが来ている間以外では、やはり始めてのことだった。
やることもなくのんびりお茶を飲んでいると、使用人が忙しげに何度も廊下を行きかった。
「今日はなんだかバタバタしているみたいね」
「それが昨夜までの長雨で、領地のどこかに災害が起きたらしくて……」
「え? 災害が?」
「どの程度の被害か今調査中とのことです。旦那様も現地に向かったと先ほど聞きました」
「ヴァルト様が自ら……」
窓の外を見やると、さわやかな晴天が広がっている。それでも所々に残る水たまりが、振った雨の多さを告げていた。
「ねぇエラ、わたくしに何かできることはないかしら?」
「奥様はゆっくり過ごすようにと旦那様から仰せつかっております。どうぞご心配なさらず、旦那様のお帰りをお待ちください」
「でも……」
リーゼロッテはフーゲンベルク公爵夫人となった。領地の危機にのほほんとお茶をしているなど、自覚が足りないにも程があるだろう。
「この時期に何がしか起きるのは、毎年のことのようですから。マテアスもおりますし、任せておけば問題ございませんよ」
エラにはそう言われたものの、このままティータイムをたのしむ気分にもなれなくて、リーゼロッテは早々に部屋へと戻ったのだった。