嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 そんな日々がしばらく続いたとき、ザイデル公爵家の謀反(むほん)が起きた。兄の愛人だった女がハインリヒ王子の命を狙い、国家転覆(てんぷく)を企んだ(とが)でザイデル家は窮地(きゅうち)に立たされた。
 王妃の離宮に頻繁に通っていたイジドーラが、真っ先に手引きの嫌疑(けんぎ)をかけられたのは、当然の流れと言えるだろう。

 セレスティーヌ王妃の計らいで身の潔白を証明された矢先に、そのセレスティーヌが急逝(きゅうせい)してしまった。セレスティーヌという心の支えを失くしたイジドーラは、呆然自失の日々を過ごすことになる。

 その後もいろいろあった。再燃(さいねん)したイジドーラ糾弾(きゅうだん)の声に、死刑の一歩手前まで追い詰められた。それを救ってくれたのがディートリヒ王だ。セレスティーヌの遺言通りにイジドーラを後妻に迎い入れ、イジドーラはこの国の王妃となった。


 激動の日々に、当時の記憶は曖昧だ。あの間、カイはどうしていたのだろう。そばにいた時期も確かにあったが、気づけばカイは侯爵家に戻されていた。長い間、気遣ってやれなかった自分を悔やむ。そんな余裕が出てきたのは、随分と時間が経ってからのことだった。

 王妃となる直前、婚儀の準備の合間を縫って、一度だけ姉の元に行った覚えがある。思えばそれが、ベアトリーセに会った最後となってしまった。
 そのときカイは五歳くらいだった。同じ屋敷の中で極力ふたりが顔を合わせないようにして、どうにか上手くやっていると報告を受けていた。

「お姉様……お酒を召しているの……?」

 酒の残る息を吐きながら、ベアトリーセは腕に人形を抱いてイジドーラの前に現れた。

「ねぇ見てイジィ、可愛いでしょう?」
「お姉様……?」
「ふふふ……わたくしの大事な赤ちゃん。さぁ、たんとミルクを飲みましょうね」

 焦点の合わない瞳のまま至福の笑みを人形に落とす。そんな姉を見て、イジドーラは言葉を失い立ち尽くした。姉付きの侍女に問い詰めると、ベアトリーセは酒におぼれ、随分と前からこんな様子だったらしい。

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