嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 慈悲深かったベアトリーセを狂わせたとして、カイは使用人たちからも忌避(きひ)され、味方が誰ひとりいない屋敷の中で孤立していた。なぜ早く言わなかったのか。そうは思ってもイジドーラ自身、長いこと自由に動ける身ではなかった。結局何もできないまま、イジドーラは王妃としての務めに忙殺される日々に突入していった。


「イジドーラ様、カイ様がいらしております」

 たたんだ(おうぎ)をもてあそんでいた手を止めて、イジドーラははっと顔を上げた。ベアトリーセの墓参りに行って以来、物思いにふけることが多くなった。

「いいわ、今すぐ通しなさい」
「仰せのままに」

 静かに(こうべ)を垂れた女官のルイーズが、カイを連れて戻ってくる。

「イジドーラ様、ご報告にあがりました」
「カイ……こちらにいらっしゃい」

 素直に近寄ったカイをこの腕に抱きしめた。無事に戻ってきたことをしっかり確かめたくて。

「ティビシス神殿はどうだったかしら?」
「この国最古の神殿ですからね。物見遊山(ものみゆさん)にはちょうど良かったかと」

 軽く肩をすくめたカイを見るからに、得たい情報は何もなかったようだ。思えばティビシスはベアトリーセが生前、熱心に通っていた神殿だ。アンネマリーが行き先を決めたとはいえ、運命はどこまでもカイに冷たい仕打ちをするというのか。

 姉がなぜあんなにもカイを拒絶していたのか、イジドーラは王妃となってしばらく経ってから理由を知った。この国の真実、龍にまつわる隠された情報は膨大過ぎる。これまで降りた龍の託宣の全貌も、イジドーラはいまだ把握しきれていない。

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