嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
誰がどんな託宣を受けたかを、詳しく知る者は数少ない。それこそ神殿上部の者や王族など、ごく限られた立場の人間だけだ。真顔になったカイが瞬時に警戒を示すと、イグナーツは対照的にへらりと笑った。
「わりぃな、ラウエンシュタインにもそれなりの情報網ってのがあんだよ。しかも聞きもしないのに教えてくれる優秀さと来てる」
横で平和そうに眠る女の髪を指に絡めながら、上機嫌にイグナーツは言葉を続けた。
「なぁ坊主」
「カイです」
「なぁカイ、オレは思うんだが、お前、絶対に人生損してっぞ」
「損?」
「ああ、世の中にゃ楽しいことが山ほどある。馬鹿みてぇに楽しいことがな」
悪戯を思いついた子供のような顔を、イグナーツはカイに向けてくる。
「オレがそれをしこたま教えてやんよ」
それからというもの、イグナーツはカイをあちこちに連れまわすようになった。見聞きする物すべてが別世界で、いかに自分が狭い場所にいたかを知ったカイは、素直にその教授を受け続けた。
はじめて女性のカラダを知ったのも、イグナーツに娼館へ連れていかれたときのことだった。女に煙草に賭博、悪い遊びは一通り教わった。どれも我を忘れてのめり込むほどのことはなかったが、カイの見識を広げたことだけは確かだった。
ただその中で、ひとつだけ受け入れられないものがあった。酒は五感を鈍らせ任務に支障をきたす。何より晩年のベアトリーセを彷彿とさせるため、カイは頑なにそれを拒絶した。
イグナーツから教わったことは実にくだらない物ばかりだったが、ひとつだけ感謝していることがある。
「どんなときでも取りあえず笑っとけ。そうすりゃ傍からすると平和に見えんだろ? お前にしてみりゃ、余計なお世話かもしれねぇがよ」
ある日そんなことを言われ、カイは物は試しに笑ってみることにした。するとどうだろう。相手の懐に入ることが容易になり、情報をより簡単に引き出せるようになった。油断させるのにこれほど効果的で、安上がりなものはないと結論づけたカイだった。
初めはぎこちなかった笑顔も、すぐに意識せずとも作れるようになった。周囲から笑い上戸の称号を授かり、それ以降カイは、冷めた瞳を表に出すことをしなくなった。
「わりぃな、ラウエンシュタインにもそれなりの情報網ってのがあんだよ。しかも聞きもしないのに教えてくれる優秀さと来てる」
横で平和そうに眠る女の髪を指に絡めながら、上機嫌にイグナーツは言葉を続けた。
「なぁ坊主」
「カイです」
「なぁカイ、オレは思うんだが、お前、絶対に人生損してっぞ」
「損?」
「ああ、世の中にゃ楽しいことが山ほどある。馬鹿みてぇに楽しいことがな」
悪戯を思いついた子供のような顔を、イグナーツはカイに向けてくる。
「オレがそれをしこたま教えてやんよ」
それからというもの、イグナーツはカイをあちこちに連れまわすようになった。見聞きする物すべてが別世界で、いかに自分が狭い場所にいたかを知ったカイは、素直にその教授を受け続けた。
はじめて女性のカラダを知ったのも、イグナーツに娼館へ連れていかれたときのことだった。女に煙草に賭博、悪い遊びは一通り教わった。どれも我を忘れてのめり込むほどのことはなかったが、カイの見識を広げたことだけは確かだった。
ただその中で、ひとつだけ受け入れられないものがあった。酒は五感を鈍らせ任務に支障をきたす。何より晩年のベアトリーセを彷彿とさせるため、カイは頑なにそれを拒絶した。
イグナーツから教わったことは実にくだらない物ばかりだったが、ひとつだけ感謝していることがある。
「どんなときでも取りあえず笑っとけ。そうすりゃ傍からすると平和に見えんだろ? お前にしてみりゃ、余計なお世話かもしれねぇがよ」
ある日そんなことを言われ、カイは物は試しに笑ってみることにした。するとどうだろう。相手の懐に入ることが容易になり、情報をより簡単に引き出せるようになった。油断させるのにこれほど効果的で、安上がりなものはないと結論づけたカイだった。
初めはぎこちなかった笑顔も、すぐに意識せずとも作れるようになった。周囲から笑い上戸の称号を授かり、それ以降カイは、冷めた瞳を表に出すことをしなくなった。