嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 初対面での物静かな姿は、猫をかぶっていたに過ぎなかったことをカイは悟った。ゆっくりと丁寧に話すのも、貴族としてボロを出さないための手段なのだろう。まんまと騙されたことに気がついて、カイは刺すように冷たい視線をイグナーツへ落とした。
 この男に一体何を期待していたのだろうか。カイの中で、自分でもよく分からない裏切られたような感情が湧き上がった。

「せっかく来たんだ。お前も飲んでけよ」
「いえ、わたしはまだ酒が飲める歳ではないので」
「いやぁあん、まじめぇ!」

 相当酔っ払った女に腕を引かれ、無理やりにイグナーツの横に座らされる。

「可愛いボクちゃんにはおねぇさんがミルクおごったげるぅ」
「いやオレは……」
「女に恥かかせんな。いいから素直に受け取っとけ」

 そういうことぉ~、と横からぶちゅっと頬に口づけられる。

「今夜は全部オレのおごりだ。店に来てるやつぁ、好きなだけ飲み食いしていいぜ」

 そのひと声に酒場全体がどよめいて、あっという間にどんちゃん騒ぎに突入した。呆気にとられたまま、差し出されたミルク入りのグラスを握らされる。

「つきあっていられないのでオレは帰ります」

 グラスをテーブルに置くと、カイはすぐさま立ち上がろうとした。

「そんな冷めた(つら)してたって(なん)も変わんねぇぞ? 笑え笑え」
「な――……っ!」

 いきなり脇腹をくすぐられ、反射的にイグナーツの手首を取った。そのままねじり上げようとした瞬間、あちこちから女たちの手が伸びてくる。

「きゃははは、ボクちゃんわらえわらえ~っ!」
「うわっちょっとやめっ」

 何本もの手に脇から首からあらぬところまでくすぐられ続ける。これまで出したこともない奇声を上げて、カイは涙目になって身をよじり続けた。

 (えん)もたけなわになるころ、酔いつぶれた人間がそこかしこで転がりいびきをかいている。髪も服も揉みくちゃにされた姿で、半ば放心してカイはその場に座り続けていた。

「なぁ坊主。お前、龍から奇妙(けったい)な託宣を受けたらしいな」

 となりで氷だけになったグラスを回していたイグナーツが、いきなり口を開いた。

「どうしてそれを……」

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