嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
濃厚にイグナーツと過ごしたのはそのひと冬だけだ。雪解けの季節を迎えると、イグナーツは再び山へと向かった。
今までのちゃらんぽらんさが嘘のように、真剣なまなざしをこれから行く山脈へと向ける。その姿は、初めて出会った日のイグナーツそのものだ。そのことがカイを混乱させる。
「イグナーツ様、言ってましたよね。山には大切なものを取り戻しに行くって」
「ああ、オレは龍にマルグリットを奪われた。何が何でも、オレはあいつを取り戻す」
マルグリットはイグナーツの妻であり、ラウエンシュタイン家の女公爵だ。龍に奪われたという状況もよく分からなかったが、険しい山脈に分け入り命の危険を冒してまでそれを求めるイグナーツを、カイはひとつも理解できなかった。
「知ってっか? 対の託宣を受けた者同士が肌を合わせるとな、それはそれは気持ちがいいんだ。アレを味わったら、ほかの女なんかじゃ絶対に満足できなくなる」
そう理由を聞かされて、カイは笑わずにはいられなかった。そんな極上の女を手にするためなら、イグナーツは命を懸けても惜しくないのだろう。
「なぁカイ。案外いるのかもしれねぇな。お前にも、対となる託宣の相手が」
「オレに対の相手が……?」
考えてもみなかったことを言われ、カイは目を丸くした。婚姻の託宣を受けた者ならともかく、禁忌の異形になり果てる自分に、そんな相手がいるとは思い難い。
「だってそうだろう? 星に堕ちるってことは、龍に歯向かってまで守りたいもんがあるってことだ。ひねくれたお前がそんなことするなんざ、よっぽど特別な誰かがいるとしか思えねぇ」
イグナーツは何気なく言っただけなのかもしれない。カイ自身もその言葉を、あのとき話半分で聞いていた。
だがカイは本当に見つけてしまった。自分の対となる託宣を受けた者が、この世のどこかに存在するということを――。
(まぁ、それが女だとは限らないけど)
その相手のために、自分はいつか星に堕ちるのだ。そう考えると、焦がれるような不思議な高揚感が、カイの奥で湧き上がった。
今までのちゃらんぽらんさが嘘のように、真剣なまなざしをこれから行く山脈へと向ける。その姿は、初めて出会った日のイグナーツそのものだ。そのことがカイを混乱させる。
「イグナーツ様、言ってましたよね。山には大切なものを取り戻しに行くって」
「ああ、オレは龍にマルグリットを奪われた。何が何でも、オレはあいつを取り戻す」
マルグリットはイグナーツの妻であり、ラウエンシュタイン家の女公爵だ。龍に奪われたという状況もよく分からなかったが、険しい山脈に分け入り命の危険を冒してまでそれを求めるイグナーツを、カイはひとつも理解できなかった。
「知ってっか? 対の託宣を受けた者同士が肌を合わせるとな、それはそれは気持ちがいいんだ。アレを味わったら、ほかの女なんかじゃ絶対に満足できなくなる」
そう理由を聞かされて、カイは笑わずにはいられなかった。そんな極上の女を手にするためなら、イグナーツは命を懸けても惜しくないのだろう。
「なぁカイ。案外いるのかもしれねぇな。お前にも、対となる託宣の相手が」
「オレに対の相手が……?」
考えてもみなかったことを言われ、カイは目を丸くした。婚姻の託宣を受けた者ならともかく、禁忌の異形になり果てる自分に、そんな相手がいるとは思い難い。
「だってそうだろう? 星に堕ちるってことは、龍に歯向かってまで守りたいもんがあるってことだ。ひねくれたお前がそんなことするなんざ、よっぽど特別な誰かがいるとしか思えねぇ」
イグナーツは何気なく言っただけなのかもしれない。カイ自身もその言葉を、あのとき話半分で聞いていた。
だがカイは本当に見つけてしまった。自分の対となる託宣を受けた者が、この世のどこかに存在するということを――。
(まぁ、それが女だとは限らないけど)
その相手のために、自分はいつか星に堕ちるのだ。そう考えると、焦がれるような不思議な高揚感が、カイの奥で湧き上がった。