嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第12話 不確かな思い

 トルソーに着せられた二着のドレスを前に、リーゼロッテの視線が行ったり来たりを繰り返している。執務机からその様子を眺めつつ、ジークヴァルトは書類へと手を伸ばした。

「ねぇ、エラ。こちらの方が華やかだけれど、ちょっと可愛らしすぎないかしら?」
「いいえ、そのようなことは。リーゼロッテ奥様にとてもお似合いでございますよ」
「だけどわたくしも公爵夫人となったし、やっぱり落ち着いた色合いのドレスを選ぶべきじゃないかしら……」
「奥様のお歳ならこういったデザインでも問題はないかと」
「でも白の夜会はデビュタントが主役でしょう? わたくしがあまり派手にするのもどうかと思うわ」

 そんな会話が続く中、マテアスが紅茶の準備をし始める。休憩の合図とばかりに書類を放り出すと、ジークヴァルトはリーゼロッテの横へと腰かけた。

「わたくしが早く決めないと、ヴァルト様のお衣装も困りますわよね」
「オレの準備など(たか)が知れている。ゆっくり考えて好きな方を選ぶといい」

 夜会では夫婦揃いの衣装を用意する。サイズやデザインを微調整するため、お針子たちは直前まで大忙しだ。

「ヴァルト様はどちらがいいとお思いになられますか?」

 期待に満ちた瞳で見上げられ、並ぶドレスに視線を向けた。右から左に移動させつつ、リーゼロッテの観察も忘れない。

「オレが選ぶならこちらだな」

 先ほど『可愛らしい』と言っていたドレスの方を指し示す。途端にリーゼロッテの瞳が輝いた。

「どうしてこちらをお選びに?」
「これを眺めているときの方が、お前がうれしげに見えたからだ」

 驚き顔になったリーゼロッテの口に、焼き菓子をひとつ放り込む。唇に残ったかけらをぬぐい取ると、その頬がほのかに色づいた。

「もう一着は次の夜会で着ればいい」
「ほかの夜会にも出られるのですか?」
「新年を祝う夜会があるだろう? あれにも出席する予定だ」

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