嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第13話 疑いの夜会

 真正面にいるベッティが、真剣な目つきで化粧を(ほどこ)していく。唇をなぞる紅筆(べにふで)の感触に、ルチアは思わず身じろいだ。

「くすぐったくても我慢してくださいましぃ。あと少しで終わりますからぁ」

 細かいしわの間まで、丹念に紅が塗り込まれてくる。その動きがまるで別の何かに思えて、深く考えないようにとぎゅっと(まぶた)を閉じた。

「そんなにきつくつむっては駄目ですよぅ。目周りがひどいことになりますのでぇ」

 ベッティの言葉に慌てて目を見開いた。引かれる紅は微妙に色を変え、今度は唇の先端ばかりを集中的になぞってくる。この落ち着かない感触はいつまで続くのだろうか。それでなくてもここ数日、あの出来事が頭から離れない。

 こんがり亭へ行った日の記憶は半端に途切れ、気づけばタウンハウスで翌朝を迎えていた。たまたま森にいた木こり達に驚いて、ルチアはその場で気を失ってしまったらしい。ベッティからそう説明を受け、そんな馬鹿なと驚いた。

「ねぇ。あの日、カイはほかに何か言ってなかった?」

 筆が離れたすきに問いかけた。一瞬だけ手を止めたベッティが、パレットから紅をつけなおして再びこの唇をなぞってくる。

「先日お話しした通りぃ、カイ様はルチア様をここまでお運びになっただけですぅ。着替えのお世話などはすべてベッティがさせていただきましたのでぇ、どうぞご安心くださいましねぇ」
「そう……」

 納得がいかないままで、仕方なくルチアは口をつぐんだ。

(あれはぜんぶ夢だったって言うの……?)

 ずっと市井(しせい)で育ってきたルチアだ。これまでも危険な目にはそれなりにあってきた。深窓の令嬢でもあるまいし、屈強な男どもに出くわしたくらいで気絶するなど、どう考えてもあり得ない。

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