嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 リーゼロッテの手を取った紳士は、どこか心ここにあらずな様子だ。それでも手慣れたエスコートでダンスへと(いざな)っていく。軽快なワルツの調べに乗せて、ふたりは踊り始めた。リーゼロッテの後ろに回り、彼女も踊るしぐさでついてくる。

(それにしても、奥さんを亡くしたばかりなのに誰かをダンスに誘うだなんて……)

 彼女のために受けはしたが、紳士の行動は理解しがたいものがある。ぼんやりと踊る紳士の顔を眺めながら、非難めいた考えが湧き上がった。

「わたしの話を聞いてくれますか?」
「え?」
「実はわたしには病気の妻がいまして……」

 リーゼロッテの返事を待たずに、紳士はつらつらと言葉を並べていく。それは何度も言い慣れた台詞のように、ひとつの(よど)みもなく続けられた。

「恥ずかしながら治療費の工面に苦労しておりまして。よろしければご協力いただけないでしょうか。良い薬が見つかりそうなのです。少しでも妻の体を楽にしてやりたくて、どうかわたしの願いを聞き届けてくれませんか?」

 驚きで目を見開くリーゼロッテの横で、彼女が悲しそうな顔をした。紳士がここまでの借金を重ねていたことを、彼女はまったく知らなかったようだ。

「もちろん借りたものは必ずお返しします。例えどれだけ時間がかかっても、それだけはお約束します。苦しんでいる妻の姿を見るのはわたしも本当につらいもので。どうか妻のためにご協力を……」

 陰のある表情は、嘘を言っているようには思えない。令嬢たちの同情を誘ってお金を借りていたと、先ほどカミラが言っていた。確かに社交慣れしていない者なら、あっさりと(ほだ)されてしまいそうだ。
 しかし彼女はすでに亡くなっている。同情を誘うにはその方が都合がいいのだろうが、これはさすがに頂けないやり方だ。垣間見た映像で、紳士はこれまで借りたお金の完済を誓っていた。だが借金を借金して返すなど、さらに負債を増やす悪循環に陥るだけだ。

「少額でも検討していただけませんか?」

 紳士の言葉に、彼女がふるふると首を振った。これ以上自分のために苦しまないで欲しい。そんな思いが伝わってくる。

「申し訳ございませんが、そのお話はお受けできません」
「そう……ですか」

 紳士のためにもきっぱりと返す。断られるのも慣れてしまっているのか、諦めの表情で紳士は瞳を伏せた。

不躾(ぶしつけ)な話をしてすみませんでした。聞いてくださっただけでも感謝します」

 ぎゅっと胸が痛んだ。今のリーゼロッテの立場なら、恐らく紳士の借金などすべて肩代わりできるだろう。生じた迷いを遮るように、彼女からひとつの映像が流れ込んできた。

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