嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「そうか! よかった、この調子でもっともっと良くなろう」
「そうね……元気になったら、またあなたとダンスがしたいわ……昔みたいに、一緒に踊ってくれる?」
「もちろんだとも! そうしたらドレスを新調しよう。君の黒髪に似合う素敵なドレスだ!」

 映像が出逢ったあの日に立ち帰った。何もかもが美しく輝いて、見つめ合うふたりは軽やかに踊り続ける。

「リーゼロッテ」

 名を呼ばれ、はっと意識を戻した。目の前には手を差し伸べたまま返答を待つ紳士がいる。その横で彼女がぴったりと紳士に寄り添っていた。

 ――もう一度、彼と踊れたら……上へと昇っていけそうな気がする

 眩しそうに彼女は頭上を見やった。天空から光の狭間が見え隠れしている。あれが閉じてしまったら、自力では天に還れなくなるだろう。

 ――だからわたしの代わりに、あなたが踊って欲しい

「悪いが妻は……」
「ジークヴァルト様」

 紳士に断りを入れようとしたジークヴァルトのジャケットを掴む。不安げな彼女に頷いて見せてから、リーゼロッテは囲う腕に手を重ねた。

「この方と踊らせてくださいませんか? おひとりまでなら、ほかの方と踊っても良いのでしょう?」

 盛大に刻まれた眉間のしわに、負けじと真剣な眼差しを向ける。彼女の願いを叶えてあげたい。穏やかに天に還れるように。

 その思いが届いたのか、ジークヴァルトは諦めたように腕から力を抜いた。

「これが終わったらすぐ帰るからな」
「はい、ありがとうございます、ヴァルト様」

 微笑んで、紳士に向き直る。

「お誘い、よろこんでお受けいたしますわ」
「お応えいただき光栄です」

< 232 / 305 >

この作品をシェア

pagetop