嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第15話 危うげな心
まるでコソ泥でも働きに来たかのように、ベッティはフーゲンベルク家の敷居をそろりとまたいだ。俯き加減で目線を下げつつ、先を行くルチアに付き従う。
ブルーメ子爵家での侍女の任務は続行中だ。今回の公爵家訪問は、年明けまでの長期滞在が目的となっている。その間どうやって無事安全に乗り切るべきか。ルチアのお目付け役よりも、むしろそっちの方がベッティにとっては死活問題となっていた。
出迎えが家令のマテアスひとりなのを確認し、広いエントランスで内心安堵の息をつく。ルチアの背後に静かに控え、存在感のない侍女を徹底的に装った。
「ルチア・ブルーメ子爵令嬢様、ようこそおいでくださいました」
「……また、お世話になります」
「長旅でお疲れのことでしょう。早速お部屋にご案内いたします」
マテアスの先導で迷路のような廊下を進む。案内などなくとも、屋敷の間取りはすべて記憶しているベッティだ。しかし気づかれなかったのをいいことに、黙ってあとをついていった。
「のちほどリーゼロッテ奥様の元へお連れ致します。あいにく主は執務が立て込んでおりまして。時間が取れ次第、後日挨拶していただくことになると思いますので、どうぞご承知おきください」
そのまま一生、書類の山に埋もれていてくれ。ベッティはひとりほくそ笑む。
「こちらのお部屋でございます。前回よりも広めの客間をご用意させていただきました。ルチア様が退屈なさらないようにとの奥様のお計らいですので、どうぞごゆるりとお寛ぎください」
扉を開け、マテアスが振り返った。
「中で侍女長が待っております。必要なことがございましたら、何なりと彼女にお申し付けください。……おや? お付きの侍女はベッティさん、あなたでしたか。わたしとしたことが、すぐに気づかずに失礼しました」
「い、いぃえぇ。わたしなどルチア様を陰でお支えする一介の侍女、いっそ存在ごと忘れてもらって結構ですぅ」
そのまま気づかずにいればいいものを。舌打ちをこらえつつ、愛想笑いをふりまいた。自分がここに来たことを、マテアスがわざわざ公爵に告げることはないはずだ。そうは思うものの、万が一があっては厄介だ。
いつジークヴァルトと顔を合わせることになるのかと、戦々恐々としてしまう。
何しろあの日、雪積もる神殿の森で、ベッティはリーゼロッテの長い髪を切り落としてしまった。いくら彼女を逃がすためとはいえ、容赦なくバッサリいったのは少々やりすぎだったかもしれない。
ブルーメ子爵家での侍女の任務は続行中だ。今回の公爵家訪問は、年明けまでの長期滞在が目的となっている。その間どうやって無事安全に乗り切るべきか。ルチアのお目付け役よりも、むしろそっちの方がベッティにとっては死活問題となっていた。
出迎えが家令のマテアスひとりなのを確認し、広いエントランスで内心安堵の息をつく。ルチアの背後に静かに控え、存在感のない侍女を徹底的に装った。
「ルチア・ブルーメ子爵令嬢様、ようこそおいでくださいました」
「……また、お世話になります」
「長旅でお疲れのことでしょう。早速お部屋にご案内いたします」
マテアスの先導で迷路のような廊下を進む。案内などなくとも、屋敷の間取りはすべて記憶しているベッティだ。しかし気づかれなかったのをいいことに、黙ってあとをついていった。
「のちほどリーゼロッテ奥様の元へお連れ致します。あいにく主は執務が立て込んでおりまして。時間が取れ次第、後日挨拶していただくことになると思いますので、どうぞご承知おきください」
そのまま一生、書類の山に埋もれていてくれ。ベッティはひとりほくそ笑む。
「こちらのお部屋でございます。前回よりも広めの客間をご用意させていただきました。ルチア様が退屈なさらないようにとの奥様のお計らいですので、どうぞごゆるりとお寛ぎください」
扉を開け、マテアスが振り返った。
「中で侍女長が待っております。必要なことがございましたら、何なりと彼女にお申し付けください。……おや? お付きの侍女はベッティさん、あなたでしたか。わたしとしたことが、すぐに気づかずに失礼しました」
「い、いぃえぇ。わたしなどルチア様を陰でお支えする一介の侍女、いっそ存在ごと忘れてもらって結構ですぅ」
そのまま気づかずにいればいいものを。舌打ちをこらえつつ、愛想笑いをふりまいた。自分がここに来たことを、マテアスがわざわざ公爵に告げることはないはずだ。そうは思うものの、万が一があっては厄介だ。
いつジークヴァルトと顔を合わせることになるのかと、戦々恐々としてしまう。
何しろあの日、雪積もる神殿の森で、ベッティはリーゼロッテの長い髪を切り落としてしまった。いくら彼女を逃がすためとはいえ、容赦なくバッサリいったのは少々やりすぎだったかもしれない。