嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(あれだけ見事な髪を切られて、さすがのリーゼロッテ様も怒ってるかもですよねぇ)

 彼女のことだ。あからさまには態度に出したりはしないだろう。しかし一緒に逃げると嘘をつき、馬に乗せて暗闇の中をいきなり放りだしたのだ。恨み言のひとつやふたつ腹の中で抱えていても、何の不思議もない話だった。

(それよりも公爵様ですぅ)

 髪とは言え、大事なリーゼロッテを傷つけられたのだ。どんな報復が待っているのか、想像するだに恐ろしすぎる。

 龍が目隠しをしてくるせいで、黒幕神官レミュリオの名は誰にも告げられないでいる。なぜあの時リーゼロッテの髪が必要だったのか。明確に理由を説明できない現状で、公爵の怒りの矛先(ほこさき)がこちらに向いたとしたら。

 考えただけでも身震いが起こる。リーゼロッテのためとあらば、ベッティを人知れず闇に葬るくらい平然とやってのけるに違いない。

「ルチア様、お待ちしておりました」

 客間に入ると奥からエラが現れた。ゆったりとした服装で、お腹が少しせり出して見える。

「ではエラ、あとは頼みます」
「はい、マテアス。お任せください」

 エラと微笑み合うと、マテアスは出ていった。ベッティが得た情報では、貴族籍を抜けたエラを速攻でマテアスがゲットしたらしい。

 エラ争奪杯の頂点に輝くのは、マテアス以外いないだろう。初めからそう踏んでいたベッティは、エラを落とすのは誰だという賭けで、穴馬のマテアスに一点張りをしていた。一番人気はエーミールだったため、おかげで大儲けできてほくほく顔のベッティだ。

 出迎えたエラに、ルチアは小さく頭を下げた。

「すみません、またお世話になりに来ました」
「謝る必要などございませんよ。冬の間お話し相手ができたと、リーゼロッテ奥様もおよろこびになられていますから」

 今回ルチアは年をまたいで公爵家に滞在予定だ。
 国の最北に位置するブルーメ子爵家は、真冬になると積雪の多さで領地から出ることに難儀する。王家主催の新年を祝う夜会に招待されているため、ルチアだけは王都にとどまることになった。
 だがタウンハウスにひとり置くのも心配だという事で、フーゲンベルク家で面倒を見る手はずとなったというのが事の次第だ。

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