嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ねぇ、ベッティ。さっき迷ってたネックレス、やっぱり欲しいから買ってきてもらえない?」
「わたしがですかぁ?」
「誰かに先に買われちゃったら嫌なの。落ち着くのにまだ時間がかかりそうだから、あなたが今行ってきて」
「承知いたしましたぁ。すぐに戻ってまいりますのでここにいてくださいましねぇ」
「慌てなくてもいいから、気をつけて行ってきて」

 出ていったベッティが、店の人間に声がけしているのが聞こえた。逃げ出したりしないように、扉の前を見張っているよう念を押している。

 足音が遠のいたのを確認して、ルチアは扉を開けた。そこにいた店の男と目を合わせる。

「ちょっと寒いの。ショールとかブランケットとか、薄いもので構わないから何枚か貸してもらえない?」
「かしこまりました」

 丁寧に腰を折り、男はブランケットを数枚持ってきた。お礼を言うと再び(うやうや)しく腰を折られる。

「ゆっくりしたいから、ひとりにしてもらっていいかしら?」
「仰せのままに」

 部屋の外に、まだ男の気配がする。律儀に見張っているのは、ベッティがそこそこのチップを握らせたからなのだろう。

 逃げ出すこと前提なのがおもしろくない。だが、このまま言われた通りにおとなしくしているルチアではなかった。

(もう限界よ!)

 逃げ出すなら今しかない。やさしくしてくれたブルーメ子爵には申し訳ないが、行方不明になってしまえばすぐにでも忘れてもらえるだろう。

 上質で少し気が引けたが、ブランケットを結び合わせて長いロープを作った。音を立てないように窓を開け、(わく)にあった手すりに縛り付ける。

(ここが三階だからって油断し過ぎよ)

 ベッティの裏をかけて、それはそれで気分が良かった。大胆にスカートをたくし上げると、中から小さな異形がぴょこんと現れた。

「やだ、あなたそんなところに隠れてたの?」

 おめめをきゅるんとさせて、異形はうれしそうにルチアの肩に飛び乗ってくる。

「もう、しょうがないわね。いたずらだけはしないでよ?」

 邪魔にならないようスカートの(すそ)をひとつに結び、念入りに余った布をお腹の方に押し込んだ。

(まずはこんがり亭へ行こう)

 ダンとフィンなら、(こころよ)くルチアを(かくま)ってくれるはずだ。そうしたら以前のようにかつらをかぶって、各地を回りながらひっそりと暮らしていけばいい。


 日が傾き始めた外を見据え、ルチアはぐっと窓枠(まどわく)に足を掛けた。








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