嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
第16話 ふたつ目のあざ
開け放たれた窓から、冷たい風が吹き込んでくる。雪と泥にまみれたブランケットのロープを握り締め、ベッティは口元に薄ら嗤いを浮かべた。
「うふふぅ。ルチア様ぁ、このベッティを出し抜こうだなんてぇ、超絶いい度胸してるじゃありませんかぁ」
血走った目は、完全に瞳孔が開ききっている。そんなベッティの横で、見張っていた店の男の顔がこれ以上なく真っ青になった。
「耳かっぽじってよぉく聞いてくださいますかぁ? 人生まだ終わらせたくなかったらぁ、この件は他言無用でお願いしますねぇ。もしひとりでも誰かに話したりしたらぁ、デルプフェルト侯爵家が問答無用で敵になると思ってくださいましぃ」
必死に頷く男を置いて、ベッティは外へ飛び出した。まだ遠くへは行っていないはずだ。大事になる前に、速やかにルチアを回収しなくては。
店の裏手の庭に出る。ブランケットを伝い降り、途中で近くの木に飛び移ったようだ。折れた小枝が散乱する雪の上に、真新しい足跡が残されていた。
辿った先は石畳の通りが続いている。痕跡が途切れ、ベッティは辺りを見回した。自分がルチアなら、見つからないよう大通りは避けて行くはずだ。
(どのみちここから逃げだせっこないんですけどねぇ)
この貴族街は高い塀で囲まれており、常に厳重な警備がなされている。出入り口は馬車止めのある一か所のみで、出ていくにも通行証を見せる必要があった。それに徒歩で行き来する者など滅多にいない。例えルチアが門までたどり着いたとしても、不審に思われ足止めされることだろう。
真っ先に入り口のロータリーに向かい、ルチアが来ていないことを確かめた。門番にはうっかりはぐれたと説明し、もし赤毛の令嬢が来たら保護するようにと依頼した。外聞が悪いので口止め料をたんまり握らせてから、ベッティは貴族街へと引き返した。
任務でのハプニングには慣れたものだが、原因が自分にあると冷静さを欠いてしまう。失態は時間が経つほどに複雑化して、対処が難しくなっていく。落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、迅速にやらねばならないことを整理する。
くやしいが、カイには包み隠さず報告するしかない。保身のための嘘は何があっても許されなかった。これは一族から叩き込まれた掟で、任務の内容によっては仲間の命に係わることもあるからだ。
「ルチア・ブルーメ。絶対に逃がしませんよぅ」
売られた喧嘩だ。デルプフェルト家の一員として、この勝負、真っ向から受けて立とうではないか。
怪しい笑いを漏らしながら、ベッティは裏通りに向けて駆けていった。
「うふふぅ。ルチア様ぁ、このベッティを出し抜こうだなんてぇ、超絶いい度胸してるじゃありませんかぁ」
血走った目は、完全に瞳孔が開ききっている。そんなベッティの横で、見張っていた店の男の顔がこれ以上なく真っ青になった。
「耳かっぽじってよぉく聞いてくださいますかぁ? 人生まだ終わらせたくなかったらぁ、この件は他言無用でお願いしますねぇ。もしひとりでも誰かに話したりしたらぁ、デルプフェルト侯爵家が問答無用で敵になると思ってくださいましぃ」
必死に頷く男を置いて、ベッティは外へ飛び出した。まだ遠くへは行っていないはずだ。大事になる前に、速やかにルチアを回収しなくては。
店の裏手の庭に出る。ブランケットを伝い降り、途中で近くの木に飛び移ったようだ。折れた小枝が散乱する雪の上に、真新しい足跡が残されていた。
辿った先は石畳の通りが続いている。痕跡が途切れ、ベッティは辺りを見回した。自分がルチアなら、見つからないよう大通りは避けて行くはずだ。
(どのみちここから逃げだせっこないんですけどねぇ)
この貴族街は高い塀で囲まれており、常に厳重な警備がなされている。出入り口は馬車止めのある一か所のみで、出ていくにも通行証を見せる必要があった。それに徒歩で行き来する者など滅多にいない。例えルチアが門までたどり着いたとしても、不審に思われ足止めされることだろう。
真っ先に入り口のロータリーに向かい、ルチアが来ていないことを確かめた。門番にはうっかりはぐれたと説明し、もし赤毛の令嬢が来たら保護するようにと依頼した。外聞が悪いので口止め料をたんまり握らせてから、ベッティは貴族街へと引き返した。
任務でのハプニングには慣れたものだが、原因が自分にあると冷静さを欠いてしまう。失態は時間が経つほどに複雑化して、対処が難しくなっていく。落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、迅速にやらねばならないことを整理する。
くやしいが、カイには包み隠さず報告するしかない。保身のための嘘は何があっても許されなかった。これは一族から叩き込まれた掟で、任務の内容によっては仲間の命に係わることもあるからだ。
「ルチア・ブルーメ。絶対に逃がしませんよぅ」
売られた喧嘩だ。デルプフェルト家の一員として、この勝負、真っ向から受けて立とうではないか。
怪しい笑いを漏らしながら、ベッティは裏通りに向けて駆けていった。