嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「ったく、せっかくの休暇だってのに、なんで妹の買い物につきあわにゃならんのだ」
「お兄様! ぶつぶつ言ってないでちゃんと運んでくださいな!」
「わーった、わーった」

 視界が(さえぎ)られるほど高く積まれた箱を抱えながら、ニコラウスはやれやれと息をついた。

「しっかし、こんなもん、店の者に屋敷まで運ばせりゃいいだろーが」
「だってすぐに使いたいんですもの。落としたりしたらわたくし泣きますわよ」

 前を行くイザベラは完全の手ぶらだ。こんなことなら従者のひとりでも連れてくればよかったと、ニコラウスはもう一度ため息をついた。

「うわっと」

 いきなり小さな異形の者が足元をかすめて、ニコラウスは石畳の上たたらを踏んだ。崩れそうな箱の動きに合わせ、前のめりに何歩か進む。不安定に積み重なったまま、箱はどうにかこうにか動きを止めた。

「あっぶねー。さすがオレ様、危機一髪」
「もう、お兄様! 乱暴に扱わないでったら!」
「今のはオレのせいじゃねぇ……ってイザベラ、お前にゃ異形の者は視えんか」

 ずれた箱の合間にできた狭い視界の中を、先ほどの異形が走り去って行く。恨みがましく目で追った裏路地で、小鬼はぴょんと誰かの肩に飛び乗った。

「ふぉっ!?」

 鮮やかな赤毛の令嬢と目が合って、おかしな声が漏れて出る。可愛らしい顔立ちに一瞬見とれるも、その姿に息を飲んだ。
 令嬢の髪は乱れ、濡れたスカートは泥だらけだ。派手に転んだのか、もしくは何者かに襲われたのか。そんな不穏な想像が、ニコラウスの頭を駆け巡る。

「あっ、ちょっと待って……!」

 怯えたように数歩後退(あとずさ)ったかと思うと、令嬢は異形を肩に乗せたまま暗がりへと駆けだした。事件の臭いを感じ取り、抱えていた荷物をニコラウスは素早く地面へと降ろした。

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