嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第17話 甘やかな沈黙

「カイ……坊ちゃま……?」

 ルチア発見の知らせに足取り軽くやってきた隠れ家で、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす。
 気だるげに壁に背を預け、それでいて高揚感を隠せないでいる。着乱れた姿で現れたカイに、ベッティは絶句した。

 カイの向こう、いつも仮眠で使う部屋のドアが開いている。その隙間から見えた寝台で、ルチアが背を向け横たわっていた。深い眠りについているのか、ゆっくりと肩が上下する。
 床に脱ぎ捨てられた衣服。リネンに流れる(つや)やかな赤毛。上かけの毛布からのびる足の内側に刻まれた龍のあざが目に飛び込んでくる。

 この光景を前にして、何があったかは一目瞭然だ。それなのにベッティは、どうしても我が目を疑わずにはいられなかった。

 今まで遊び慣れた既婚者にしか手を出してこなかったカイだ。初心(うぶ)な令嬢に対しては、興味を持つどころかむしろ避けている状態だった。もし仮に素っ裸のルチアが迫ってきたとしても、ベッティの知るカイならば絶対に相手になどしないはずだ。
 それなのに今、目の前にある現実は一体なんだというのか。不具合が生じたように、うまく思考が働かない。どうしてぇ、と(かす)れ声が小さく漏れる。無意識に込めた批難に気がつくも、それ以上の言葉は見つからなかった。

「聞いてベッティ! あったんだよ、ふたつ目の龍のあざが!」

 カイはベッティの両腕を掴んで強く揺さぶった。琥珀の瞳は興奮を(はら)んでいて、その異様さはどこかデルプフェルト侯爵を思わせる。
 こんな様子のカイは、これまで一度も見たことがない。放心したまま反応を返さないベッティに、カイはさらに狂気じみた笑いを向けた。

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