嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
翌朝カイは、何食わぬ顔でブルーメ家タウンハウスの正面玄関に立った。
護衛を依頼された騎士として挨拶をし、ルチアとは顔見知り程度の言葉を交わす。ルチアを馬車に乗せると、自身は馬にまたがりフーゲンベルク領までの道のりを並走していった。
到着した公爵家のエントランスでは、ジークヴァルトとリーゼロッテがわざわざ出迎えに現れた。リーゼロッテの要望で、過保護なジークヴァルトが同席したと言うのが本当のところだろう。
(はは、夫婦になっても相変わらずだな)
ふたりの元へと歩を進めていくと、リーゼロッテの瞳がうれしそうに輝いた。
「ルチア様! お元気そうでよかった」
「この度はご心配をおかけしました、リーゼロッテ様」
心から身を案じていたのか、今度は緑の瞳が潤みはじめる。労わるように手を取られたルチアは、少し後ろめたそうな顔をした。
「久しぶりの馬車でお疲れよね。サロンに席を用意させたから、ひと息つきましょう? カイ様もぜひご一緒に」
「せっかくのお誘いですが、オレはご遠慮します。このあと他の任務がありますので」
「そうですの。それでは仕方ありませんわね」
残念そうに言ったリーゼロッテが、ちらっとルチアを伺った。そのルチアはリーゼロッテ以上に残念そうな表情をしている。
(ん? これは何か感づかれてる?)
激鈍なリーゼロッテが珍しい。とはいえ彼女の認識は、護衛騎士に恋心を抱く令嬢の片思い程度のものだろう。
「ではジークヴァルト様、オレはこれで失礼します」
「ああ」
公爵夫妻に騎士の礼を取る。ルチアの視線を感じたが、そのまま出口へと踵を返した。
「あのっデルプフェルト様……!」
とっさのように掛けられた声に、仕方なしに振り返る。
「何? ルチア嬢」
「あの、その……きょ、今日は護衛してくださってありがとうございました」
視線を彷徨わせたあと、ルチアはどうにか無難な言葉を選び出した。まぁまぁ許容できる範囲だが、ベッティに釘を刺すよう伝えておいた方がよさそうだ。
ルチアの後方で控えていたベッティに視線をやると、任せておけとばかりに僅かに頷き返してくる。ベッティ相手だとすべてが滞りなく進むので、本当に重宝しているカイだった。
「カイ様……?」
すぐに返事をしなかったカイに、リーゼロッテが不思議そうに小首をかしげた。ルチアを無視したと感じたのか、呼びかけには少し批難じみた声音が混じっていた。
「いえ、ちょっと驚いていただけです。任務に対して律儀に礼を言われたのは、今日でふたり目だったので」
悪戯に笑み、リーゼロッテの顔を意味深にじっと見やる。
「え……? そのひとり目って、もしかしてわたくしですか?」
「はは、そうですよ。王城でリーゼロッテ様はいつでも律儀に礼をくださいましたから」
恥ずかしげに頬を染めたリーゼロッテの横で、ジークヴァルトがものすごく嫌そうな顔をした。素早く腰をさらい、リーゼロッテを抱き寄せる。
「もう、ヴァルト様!」
「はは、夫婦円満のご様子。何よりです」
リーゼロッテの抗議にふいと顔を逸らしたジークヴァルトが、横目でカイを睨んでくる。これ以上やると身に危険が及びそうで、カイは大げさな身振りでルチアの片手を掬い上げた。
「ルチア嬢の護衛の大任につけたことに感謝して」
忠誠を誓うように、手の甲に恭しく口づける。ルチアは顔どころか触れた指先までも、見事なくらい真っ赤に染め上げた。
胡乱なベッティの視線を感じたが、リーゼロッテの目にはいつものおふざけに映ったことだろう。
ぽうっとなって見つめ続けるルチアに背を向けて、カイは今度こそ公爵家をあとにした。
翌朝カイは、何食わぬ顔でブルーメ家タウンハウスの正面玄関に立った。
護衛を依頼された騎士として挨拶をし、ルチアとは顔見知り程度の言葉を交わす。ルチアを馬車に乗せると、自身は馬にまたがりフーゲンベルク領までの道のりを並走していった。
到着した公爵家のエントランスでは、ジークヴァルトとリーゼロッテがわざわざ出迎えに現れた。リーゼロッテの要望で、過保護なジークヴァルトが同席したと言うのが本当のところだろう。
(はは、夫婦になっても相変わらずだな)
ふたりの元へと歩を進めていくと、リーゼロッテの瞳がうれしそうに輝いた。
「ルチア様! お元気そうでよかった」
「この度はご心配をおかけしました、リーゼロッテ様」
心から身を案じていたのか、今度は緑の瞳が潤みはじめる。労わるように手を取られたルチアは、少し後ろめたそうな顔をした。
「久しぶりの馬車でお疲れよね。サロンに席を用意させたから、ひと息つきましょう? カイ様もぜひご一緒に」
「せっかくのお誘いですが、オレはご遠慮します。このあと他の任務がありますので」
「そうですの。それでは仕方ありませんわね」
残念そうに言ったリーゼロッテが、ちらっとルチアを伺った。そのルチアはリーゼロッテ以上に残念そうな表情をしている。
(ん? これは何か感づかれてる?)
激鈍なリーゼロッテが珍しい。とはいえ彼女の認識は、護衛騎士に恋心を抱く令嬢の片思い程度のものだろう。
「ではジークヴァルト様、オレはこれで失礼します」
「ああ」
公爵夫妻に騎士の礼を取る。ルチアの視線を感じたが、そのまま出口へと踵を返した。
「あのっデルプフェルト様……!」
とっさのように掛けられた声に、仕方なしに振り返る。
「何? ルチア嬢」
「あの、その……きょ、今日は護衛してくださってありがとうございました」
視線を彷徨わせたあと、ルチアはどうにか無難な言葉を選び出した。まぁまぁ許容できる範囲だが、ベッティに釘を刺すよう伝えておいた方がよさそうだ。
ルチアの後方で控えていたベッティに視線をやると、任せておけとばかりに僅かに頷き返してくる。ベッティ相手だとすべてが滞りなく進むので、本当に重宝しているカイだった。
「カイ様……?」
すぐに返事をしなかったカイに、リーゼロッテが不思議そうに小首をかしげた。ルチアを無視したと感じたのか、呼びかけには少し批難じみた声音が混じっていた。
「いえ、ちょっと驚いていただけです。任務に対して律儀に礼を言われたのは、今日でふたり目だったので」
悪戯に笑み、リーゼロッテの顔を意味深にじっと見やる。
「え……? そのひとり目って、もしかしてわたくしですか?」
「はは、そうですよ。王城でリーゼロッテ様はいつでも律儀に礼をくださいましたから」
恥ずかしげに頬を染めたリーゼロッテの横で、ジークヴァルトがものすごく嫌そうな顔をした。素早く腰をさらい、リーゼロッテを抱き寄せる。
「もう、ヴァルト様!」
「はは、夫婦円満のご様子。何よりです」
リーゼロッテの抗議にふいと顔を逸らしたジークヴァルトが、横目でカイを睨んでくる。これ以上やると身に危険が及びそうで、カイは大げさな身振りでルチアの片手を掬い上げた。
「ルチア嬢の護衛の大任につけたことに感謝して」
忠誠を誓うように、手の甲に恭しく口づける。ルチアは顔どころか触れた指先までも、見事なくらい真っ赤に染め上げた。
胡乱なベッティの視線を感じたが、リーゼロッテの目にはいつものおふざけに映ったことだろう。
ぽうっとなって見つめ続けるルチアに背を向けて、カイは今度こそ公爵家をあとにした。