嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「さ、リーゼロッテ奥様も」

 目の前に掲げられたのは、ジークヴァルト専用の甘くない菓子だ。これにはあーんのお返し以外に用途はない。

「もう、エラまで!」
「今日は内々の茶会ですから。奥様、どうぞご遠慮なさらず」

 満面の笑みにエラの強い圧を感じる。見上げると期待に満ちた青い瞳とぶつかった。じっと見つめ合ったまま、ジークヴァルトも無言で圧をかけてくる。
 ルチアに視線を戻すと、ニコニコと微笑ましそうに見守ってくれていた。先日招いた茶会の席で、すでに見られている醜態だ。頬に熱が集まるのを感じつつも、仕方なしにリーゼロッテは茶菓子を手に取った。

「今日は一往復だけですわよ?」

 口元に差し出すが、なぜかジークヴァルトは口を開けようとしない。(いぶか)しげにさらに菓子を押し付けた。

「お口を開けてくださいませ」
「あーんがない」

 まったくの無表情で返される。器用に唇を開かずにしゃべったのは、先日伝授した腹話術の賜物(たまもの)か。

「こ、子供ですかっ」
「あーんがなければ駄目だ」

 ふいと顔を逸らされる。

「も、もうっ! あーん、ですわっ」

 やけくそで菓子を差し出した。今度こそジークヴァルトの口に収まって、ついでに指先までべろりと舐められる。

「「ヴァルト様!」」

 リーゼロッテの声と重なって、書類を抱えたマテアスがサロンへと駆け込んできた。

「約束の時間はとっくに過ぎていますよ! 徹夜したくなかったら今すぐ執務室にお戻りください!」
「ああ、今戻る」

 リーゼロッテを抱えたまま、ジークヴァルトはおもむろに立ち上がった。次いで壊れ物を扱うように、そっとソファに降ろされる。
 蜂蜜色の髪をひと(ふさ)持ち上げて、ジークヴァルトは名残(なごり)惜しそうに唇を寄せた。そこに口づけるのかと思いきや、素早くリーゼロッテの唇を(ついば)んでくる。

「続きは夜だ」

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