嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 耳元で囁かれ、全身がぼっと真っ赤に染まる。夫婦となって半年近く経つが、不意打ちをくらうと未だに初心(うぶ)な反応しかできないリーゼロッテだ。
 ジークヴァルトが去り、いたたまれない気持ちでルチアを(うかが)った。公爵夫人としての威厳など、もはや示せるはずもない。

「ごめんなさい、変なものを見せてしまって……」
「いえ、公爵様とはいつも仲がよろしくて、わたし羨ましいくらいです」

 はにかんだ笑顔を向けられて、ほっと胸をなでおろす。ルチアは以前から口数も少なく、周囲にあまり関心がないように見えた。内心馬鹿にされているのではと心配していただけに、この反応には救われると言うものだ。

(やっぱりルチア様、ちょっと雰囲気が変わったかも)

 出会った当初のルチアは、心を閉ざしてどこか心細そうにしていた。社交界デビューを果たし、ようやく貴族社会に馴染めてきたのかもしれない。そう思うと我がことのようにうれしくなった。
 おかわりの紅茶を差し出すエラも、リーゼロッテと同じ気持ちでいるようだ。たのしそうにおしゃべりするルチアのことを、やさしげな瞳で見つめていた。

「あ、奥様。先ほどマテアスから聞いたのですが、明日、王城から使者が来られるとのことです」
「まあ、新年を祝う夜会の招待状かしら? もうそんな時期なのね」

 王家主催の舞踏会では、それぞれの家に招待状が送られる。正式な使者が届けに来るため、できる限り当主自らが出迎えるのがしきたりだった。公爵家の名に恥じぬよう、それなりの装いをすることも必要だ。

「じゃあ明日は早めに起きて準備したほうがよさそうね。ジークヴァルト様、納得してくれるかしら……?」
「今頃マテアスが、旦那様にしっかりと(くぎ)を刺しておりますよ」

 エラの返答にはっと我に返った。今夜のまぐわいを上手く回避できるだろうかと、そんな思いで呟いたことだ。それをルチアにも聞かれてしまった。ほんのりと頬を染めているところを見ると、ルチアもその意味を察したに違いない。
 ここまで来ると開き直るしかないが、涙目で赤面顔のリーゼロッテは自身のポンコツっぷりを呪うばかりだ。

「とは言え、今回の使者はカイ・デルプフェルト様が来られるそうですから、あまり気負わずともよろしいのでは」
「えっ、カイが!?」

 腰を浮かせかけたルチアに、驚いて視線を向ける。注目を浴びたルチアは、慌てて口元を手で覆った。

「す、すみません、いきなり大声を出して」
「いいのよ。ね、ルチア様、ちょっと内緒話をしましょう?」

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