嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 目配せを送ると、エラは会話が届かない場所へと移動してくれた。少し前から感じていたが、どうやらルチアはカイに恋心を抱いているようだ。それを確かめたくて、リーゼロッテは声を(ひそ)ませ前のめりに問いかけた。

「ルチア様はカイ様のことが気になって?」
「あ、う……それは……」

 口ごもったルチアの頬は、熟れたビョウのように真っ赤に染まっている。隠しているつもりだったのだろうが、鈍いリーゼロッテにもバレバレだ。

(そっか、最近ルチア様のお顔が明るいのは、カイ様に恋をしているからなのね!)

 得心が行って、初々しいルチアを前に知らず口元が綻んだ。思えばルチアが公爵家に戻ってきたとき、カイは護衛を務めていた。あの日のカイの態度を思うと、ルチアの想いはばっちりと伝わっているのではないだろうか。
 リーゼロッテは興奮気味に息を漏らした。仲のいい知り合いと知り合いが知らないうちに知り合って、知らぬ間に意識しあう仲になっているなど、むずきゅんしない方がどうかしている。

「ふふ、大丈夫よ、わたくし誰にもしゃべったりしないから」
「エマニュエル様にもですか!?」

 すぐさまそう返されて、ルチアの必死さに面食らった。次いでカイの素行(そこう)の悪さが頭をよぎり、いつしかエマニュエルに言われた注意事項を思い出す。
 既婚者との火遊びの噂が絶えないカイとは、公の場では親しいそぶりを見せないように。自分と同様にルチアもそんな忠告を受けたのかもしれない。そう考えれば、ルチアがエマニュエルを避けたがる気持ちにも納得がいった。

「あの、リーゼロッテ様。わたしが勝手に好きなだけで……その、デルプフェルト様には絶対に迷惑をかけたくないんです。だから……」
「ルチア様のお気持ち、よく分かったわ」

 不安げな様子のルチアの手を取った。柔らかく微笑み、嘘偽りない言葉を選ぶ。

「エマ様にも、もちろん他の誰にも話したりしないと、この立場にかけて約束します。だから安心して」

 カイと浮名(うきな)を流すのは、令嬢にとって社交界的に致命傷になり得ることだ。貴族として、ルチアもそれを重々承知しているのだろう。
 そうは言っても、恋心は誰にも止められないものだ。

(無責任なことは言えないけれど、これからは陰ながらルチア様を応援していこう)

 恋とはするものではなく落ちるもの。不安定に揺れるルチアの乙女心を感じ取り、至言(しげん)()()る瞬間だった。

< 311 / 522 >

この作品をシェア

pagetop