嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「カイ……」

 名を口にするだけで、締め付けられるように胸が苦しくなった。会いたくて、どうしようもなく切ない気持ちに見舞われる。
 風でカーテンが揺れないか、ひっきりなしに窓へと視線を向けた。いくら待てども冷たい風が吹き込む様子もなくて、ルチアはぎゅっと自分の体を抱きしめた。

「さみしい……さみしいよぉ、カイ」

 さみしすぎて凍え死んでしまいそうだ。引き裂かれそうなこころに呼応して、体の中心が強く疼いた。身も心も温めて、早くカイいっぱいに満たして欲しい。

(あの腕に抱かれたい)

 押しつぶされそうな思いを抱え、のろのろと時間だけが過ぎていく。
 シャッと勢いよくカーテンが引かれ、まどろみに沈んでいたルチアは慌てて身を起こした。差し込む朝日がまぶしく刺さる。逆光に(たたず)む人物がベッティだと分かると、落胆のあまりリネンに突っ伏した。

「おはようございますぅ。夕べはよぉくお眠りになられましたかぁ?」
「何それ、嫌味?」
「とんでもございませんよぅ。どちらかと言うと社交辞令の部類に入りますかねぇ」
「もう、なんなのよそれ」

 いい加減慣れたつもりでいたが、ベッティの受け答えにはいつも脱力させられる。
 怒る気力も湧いてこず、陽光から逃げるように暖かい布団へともぐりこんだ。そのまま二度寝を決め込もうとして、ルチアは再びがばっと勢いよく起き上がった。

「そうよ! 今何時!?」

 今日、王家の使者として、カイが公爵家の門を叩くことを思い出した。急いで朝食を済ませ、いつもにも増して念入りにベッティに化粧を施してもらう。

「ねぇ、どこも可笑しくない? ちゃんと可愛く見えてる?」

 姿見に自身を映しては、前から横から後ろからいろんな角度で確かめた。

「ルチア様は今日も超絶お可愛らしいですよぅ。なにせ毎日このベッティが全身お見立てしておりますのでぇ」

 求めた答えとはイマイチずれているような気がするも、ベッティだけが頼りなのは言うまでもない。今度はそわそわと幾度も窓の外を確かめた。

「ねぇ、エントランスはどっちの方向?」
「このお部屋からは見えませんねぇ」
「じゃあ馬車止めとか厩舎(きゅうしゃ)は?」
「どちらもやっぱり見えませんねぇ」
「だったらどうやってカイが来たことを確かめればいいのよ!」

 詰め寄ったルチアを前に、ベッティはふむ、と考えるしぐさをした。

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